川っぺりムコリッタの映画専門家レビュー一覧

川っぺりムコリッタ

「かもめ食堂」「彼らが本気で編むときは、」の荻上直子の原作・脚本・監督で贈る「おいしい食」と「心をほぐす幸せ」の物語。ムコリッタ(牟呼栗多)とは仏教の時間の単位のひとつ、1/30日=48分のこと。北陸の町を舞台に築50年のハイツムコリッタで暮らす4人の日常が織りなされる。出演は「ひっそりと暮らしたい」と引っ越してきた孤独な男・山田に松山ケンイチ、山田との距離感が近い隣の部屋の住人・島田にムロツヨシ、夫に先立たれた大家の南に満島ひかり、墓石の販売員の溝口に吉岡秀隆といった豪華キャストが集結。荻上監督がこれまでずっと描いてきた人と人がつながることで生まれる「幸せ」と「ユーモア」に包まれ、誰かとご飯を食べたくなるハッピームービーだ。
  • 脚本家、映画監督

    井上淳一

    松山ケンイチをなぜ前科者にしたのか分からなかった。幼き日の父の出奔のせいで、罪を犯す人間になってしまったと思い込んでいるという設定なのか。でも父を赦せないという想いと前科の贖罪がリンクせず、結局は父を赦す=弔うだけの話になっている。それが=自分を赦すにはどうしても見えない。いや、誰もが自分を赦すなんて出来ないというテーマなのか。登場人物はみな面白く魅力的だが、それぞれの変が切り結んでいかない。荻上直子の映画はいつもそうだと言えば、それまでだけど。

  • 日本経済新聞編集委員

    古賀重樹

    荻上直子が人生のダークサイドに正面から向き合っているのが新鮮だった。流れ者の松山ケンイチにしろ、アパートの大家の満島ひかりにしろ、出てくるのは過去にトラウマのある男と女ばかり。その欠落感や喪失感と向き合い、死と向き合う。イカの塩辛の工場がある北陸の町の空気がリアルで、ほのぼのとしたトーンの中の重さが、やがてドラマの重心となっていく。言葉による説明過多と極端なキャラクター設定にいささか戸惑ったが、救いはやっぱり食事。白いご飯が実にうまそうだ。

  • 映画評論家

    服部香穂里

    炊き立てごはんからすき焼きまで、目にも美味しい場面が誰かと分かち合う幸せを謳う一方、「おみおくりの作法」のごとき献身的で遺族想いの職員や、薬師丸ひろ子の軽妙かつ深い声色を堪能する“いのちの電話”のカウンセラーとの絡みが、孤独も不幸ではないと鼓舞する。ただ、荻上監督流“みんなちがって、みんないい”的エールがイマイチ実感不足で、他者との距離の詰め方が異様な隣人ら荻上作品には珍しくクセの強い面々に可能性を感じただけに、新境地に挑む選択もあったとは思う。

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