偶然と想像の映画専門家レビュー一覧

偶然と想像

第71回ベルリン国際映画祭にて銀熊賞(審査員グランプリ)を受賞。「偶然」をテーマに3つの物語が織りなされる濱口竜介初の短編集。親友同士、教授と生徒、同窓生の対話がやがて変調し、人間の本性や人生の断片を浮かび上がらせる。出演は連続テレビ小説『エール』が話題を生んだ古川琴音のほか、中島歩、森郁月、甲斐翔真らフレッシュな顔ぶれに、濱口監督作品の「天国はまだ遠い」に出演した玄理、「PASSION」の渋川清彦、占部房子、河井青葉ら個性派が揃った。第22回東京フィルメックスオープニング作品にも選ばれ、観客賞を受賞。
  • 映画・音楽ジャーナリスト

    宇野維正

    「え?このままで大丈夫?」と冷や冷やさせながら、いずれも見事な着地をみせる3つのエピソード。短い時間にテーマやモチーフをぎっしりと塗り込んでいくその手つきは、作品フォーマットのレファレンス元であろうエリック・ロメールやホン・サンスの一筆書き的な短篇作品ともまったく違う。現代日本の社会や文化や風景の貧しさ、そしてそれを嘆くのでも自嘲するのでもない濱口竜介の透徹した「棘」のようなものまで、しっかりと画面に映り込んでいることに感心させられた。

  • 映画評論家

    北川れい子

    脚本・監督、濱口竜介のストーリーテラーとしての才能とその巧みな演出話術にシビレた。美味しい料理にはドラマがあるというが、偶然を共通項にした3話仕立ての本作が、さりげなく前菜、メイン、デザートふうに配置されているのも満腹感を誘う。若いモデルが恋の未練を軽やかに振り切る第1話。言葉によるエロスの交歓がヘビーでほろ苦い第2話。勘違いの奇跡を描く第3話がまた美しい。声と言葉がまるで映像化されたようにアクションしているのも奇跡的で、俳優陣も皆みごと。

  • 映画文筆系フリーライター。退役映写技師

    千浦僚

    ずっと日本映画と日本人の生活においてエリック・ロメール映画のような恋愛関係と性愛関係さらに言えば人間関係全体そのものについての執着と、それを語り見せることと、観察と洞察と認識がもっとあるべきだと思っていたところに出てきたのが濱口竜介監督作「PASSION」(08年)。古い話で恐縮。あの渋川清彦、占部房子、河井青葉が本作ではさらに深化していた。彼らが緑の光線の存在を証明するために始めた旅が仲間を増やし成果を得ながらまだ続いているのが嬉しい。

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