リング・ワンダリングの映画専門家レビュー一覧

リング・ワンダリング

初長編「アルビノの木」で注目を集めた金子雅和が、「君は永遠にそいつらより若い」の笠松将主演で贈る幻想譚。絶滅したニホンオオカミを題材に漫画を描こうとする草介はある夜、不思議な少女ミドリと出会い、いつもと違う東京の街に足を踏み入れる……。共演は「罪の声」の阿部純子、「私はいったい、何と闘っているのか」の安田顕。
  • 脚本家、映画監督

    井上淳一

    漫画家志望の青年が戦時中にタイムスリップする。窓には紙が貼ってあり、学童疎開後でもある。なのに煌々と灯りがついている。あろうことか看板とか神社にも。この時代、灯火管制でしょ。犬を探しているが、犬猫は供出してるはず。仮に夢や幻想だとしても、それくらいの時代考証はすべきでは。一事が万事。それがこの映画のすべてを物語る。そもそも青年はなぜ狼の話を書こうとしているのか。それと戦争が関係あるのか。思いつきの羅列にしか見えない。もう少し練ってから世に出して。

  • 日本経済新聞編集委員

    古賀重樹

    日露戦争の明治、太平洋戦争の昭和、そして現在。絶滅したニホンオオカミを題材にした作品を描こうとする若い漫画家が3つの時空に迷い込むファンタジー。「アルビノの木」で人間と自然の関係に向き合った金子雅和監督の、ある意味で壮大なドラマ。死者との対話、環境破壊、近代文明批判。込められたテーマの重さに志の高さがうかがえるし、映像も美しい。ただそこを突き抜けて現代にどう刺さるのか、を求めたくなってしまう。ヒロインの阿部純子に確かな存在感がある。

  • 映画評論家

    服部香穂里

    スカイツリーの程近くに、数十年前の戦争の記憶が今も眠る東京。戦没者の果たせなかった想いや、彼らが確かに存在していた名残りを処女作へと昇華させることで、ひととしても作家としても飛躍する漫画家志望の青年の心模様の移ろいを、内省的な繊細さで笠松将が好演。時空のねじれの中、季節外れの夜空に打ち上げられる冬の花火が、亡くなったひとたちへの親愛や思慕の情を募らせる。漫画を実写化した設定の劇中劇で極寒の自然の過酷さを伝えつつ、温かな余韻が染みわたる幻想譚。

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