ドライブ・マイ・カーの映画専門家レビュー一覧

ドライブ・マイ・カー

村上春樹が2013年に発表した短篇小説に、カンヌ・ヴェネチア・ベルリンをはじめ国際映画祭で高い評価を得た濱口竜介が挑む意欲作。舞台俳優の主人公・家福(かふく)に西島秀俊、ヒロインのみさき役に三浦透子を迎え、愛と喪失、希望の物語が紡がれる。濱口竜介は東京藝術大学大学院映像研究科で黒沢清に師事し、修了制作作品「PASSION」が2008年・第56回サンセバスチャン国際映画祭で注目を浴びた。その後、「ハッピーアワー」が2015年・第68回ロカルノ国際映画祭最優秀女優賞を受賞。2018年の商業映画デビュー作「寝ても覚めても」はカンヌ国際映画祭コンペティション部門に正式出品。さらに2020年、脚本を担当した黒沢清監督「スパイの妻<劇場版>」がヴェネチア国際映画祭で銀獅子賞(監督賞)に輝く。また、監督作「偶然と想像」は2021年・第71回ベルリン国際映画祭銀獅子賞(審査員グランプリ)を受賞するなど、いま世界中から注目を集めている逸材だ。今回、濱口竜介と初タッグを組む西島秀俊は、2005年に市川準が監督した「トニ―滝谷」でナレーションを担当し、村上春樹作品を経験済み。濱口の師匠筋にあたる黒沢清監督の「ニンゲン合格」(98)や「クリーピー 偽りの隣人」(16)で主演を務めたこのベテラン俳優を濱口がいかに演出するのか期待が高まる。一方、ヒロインの三浦透子は「ロマンスドール」「おらおらでひとりいぐも」の演技に加えて、「天気の子」の主題歌を歌ったことで人気急上昇中の女優・アーティスト。本作では、主人公の愛車を運転する、寡黙でありながら芯のあるドライバーみさきを演じている。さらに、物語を大きく動かすキーパーソンの俳優・高槻役には、「Arc アーク」など公開作が目白押しの岡田将生、秘密を抱えたままこの世を去る家福の妻・音役を、村上春樹の長篇の映画化「ノルウェイの森」の霧島れいかが演じている。2021年第95回キネマ旬報ベスト・テン日本映画第1位、日本映画監督賞、日本映画脚本賞、助演女優賞(三浦透子)、読者選出日本映画監督賞受賞。
  • 映画・音楽ジャーナリスト

    宇野維正

    二つの点で本作には批判的だ。一つは、原案となった村上春樹の『短篇三作(『ドライブ・マイ・カー』『木野』『シェエラザード』)の表題作の根底にある車へのフェティシズムが微塵も感じられないこと。本作のサーブ900は、コンバーティブルで黄色でなければサーブ900である意味はない。その表層的な原作解釈にも表れているように、もう一つは、村上春樹の国際的な知名度と支持の広さを利用しているように思えたこと。それでもなお、観るに値する映画であることに異論はないが。

  • 映画評論家

    北川れい子

    観終わったらクルマ酔いにも似た陶酔感が。村上春樹原作の映画化は市川準監督「トニー滝谷」とイ・チャンドン監督「バーニング劇場版」以外、感心した記憶はないのだが、赤い車とチェーホフ『ワーニャ伯父さん』を巧みに使った脚本と演出には、ただもう降参である。急死した妻への疑惑に呪縛された主人公の、呪縛からの解放。無機質な声による言葉が、逆に聞く人に生きた感情をもたらすことの不思議。そういえば無口なドライバー三浦透子が北海道の生家跡で語る言葉も乾いていた。

  • 映画文筆系フリーライター

    千浦僚

    ほぼ3時間の映画だがそう感じさせない。体感時間100分。そこでこうくる? という展開を詰め込んでいて非常にエンタメ。セックス、カークラッシュ、銃撃、人死にもある。本作を観てからどうなってるのだろうと思って村上春樹の原作を読んでその古臭さに驚く。そのままやると絶対現在の映画に見えなかった。脚色は特にそこばかりに留意したようでもなくそれをクリアし、要所は忠実に、部分部分では超えて、映画にしていた。思慮深い手つきで必敗の生が慰撫、救済されるよろこび。

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