CHAIN チェイン(2021)の映画専門家レビュー一覧

CHAIN チェイン(2021)

幕末の京を舞台に、新撰組の内部抗争“油小路の変”を描いた時代劇。伊東甲子太郎ら新撰組の一部が“御陵衛士”を名乗って離脱。新撰組と御陵衛士の対立が激化する中、賭場の用心棒として働いていた浪人・山川桜七郎は、御陵衛士の藤堂平助らと出会うが……。「止められるか、俺たちを」の上川周作が映画初主演を務める。京都芸術大学映画学科の学生がプロフェッショナルなスタッフの協力を得て劇場用映画を製作するプロジェクト“北白川派”の第8弾。
  • 脚本家、映画監督

    井上淳一

    攻めた企画だと思う。低予算でよく撮っているとも。しかし罠だと知りながら近藤勇の妾宅に行く伊東に象徴されるように、登場人物がみなニヒリスト過ぎないか。現代の閉塞感と分断を幕末に持ってきた意図は分かるが、その借り物競走が上手くいっているとは思えない。群像が似通って連鎖せず群像のままなのだ。だから「百年経ったらいい世の中になっているといい」が響かない。行動や思想にもう少しコントラストがあれば。「侍も天皇もおらんくてよかやないですか」は良かったけど。

  • 日本経済新聞編集委員

    古賀重樹

    北白川派がとうとう時代劇を作った。しかも京都の伝統的な時代劇の枠からはみだし、文字通り現在の京都と地続きの場所で、新撰組の抗争を撮る。現代の古都に潜む地霊と向き合うという意味では、この一派の「嵐電」に通じるかもしれない。この街で暮らした者なら一度は襲われるタイムスリップのような幻覚的な瞬間。それを福岡芳穂は喜々として撮っている。物語は新撰組の内部対立を維新自体がはらむ矛盾と重ねる壮大なもの。筋を追うのにせわしないのが残念だが、意気は買う。

  • 映画評論家

    服部香穂里

    未だ多くのひとの創作意欲を刺激し、生み出され続ける幕末ものとは一線を画す。英雄視されがちな人物も含め、誰ひとり否定も肯定もせず、阿片窟の気丈な女将らの、史実からはこぼれ落ちた声も丹念に拾い上げることで、既成の史観に一石を投じる。現在の京都の風景も不意に紛れ込み、かつての仲間や身内同士で血を流し合った“戦後”が続く今を自分も生きていると痛感させられる、リアルな息づかいも胸に響く異色の時代劇。引退を表明した高岡蒼佑もニヒルな色気を放ち、花道を飾る。

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