カウラは忘れないの映画専門家レビュー一覧

カウラは忘れない

1944年8月5日、オーストラリアの捕虜収容所から1104人に及ぶ日本人捕虜が脱走した“カウラ事件”に迫るドキュメンタリー。正確に言えばそれは脱走ではなく“死ぬため”だった。「クワイ河に虹をかけた男」の満田康弘監督が、知られざる戦争の歴史を紐解く第2弾。出演は、事件の生存者である立花誠一郎、山田雅美、村上輝夫、今井祐之介、劇作家・演出家の坂手洋二。
  • 映画評論家

    北川れい子

    集団脱走の目的はただ一つ、殺されて死ぬこと。いまは雑草が生い茂るだけのオーストラリアの大地に倒れた日本兵捕虜230人余の命。高齢の生存者の証言によれば、死ぬための集団脱走に、1100人余の捕虜の8割が同意したという。カウラ収容所は天国みたいなところだった、と語る生存者も。この事件を多角的に取材した力作で、次第に明らかになる真実真相が、決して過去の事件として終わっていないのも胸に迫る。山陽女子高生のカウラ訪問が頼もしい。

  • 編集者、ライター

    佐野亨

    近作では松林要樹「オキナワ サントス」と並んで、戦時そして戦後の忘れられた歴史に光を当てた作品。昨今さまざまな場面で誇り高き日本人などという美辞のもとに隠蔽されている個の軽視と同調圧力の恐怖が、丹念かつ誠実な取材と節度ある構成によって静かに迫ってくる。「忘れられた」と書いたが、「忘れる」ことは自然の風化のみならず、時代の風潮と思惑によっても起こりうる。歴史を伝えようとする演劇人や学生たちの姿ににじむ、「忘れない」という意思が未来をつくるのだ。

  • 詩人、映画監督

    福間健二

    一九四四年八月、オーストラリアの収容所から日本兵一一〇四人が脱走して二四三人が死んだ。申し分ない待遇でも、脱走は「死ぬため」。その決行へと動いた集団心理の前提と押し切られ方のおぞましさに、主に、生きのびた人たちの証言から迫る。これを題材にした坂手洋二の劇の、現地での上演の様子も。「生きて虜囚の~」の呪縛に何が負けるのか。日本人、昔はダメだった、ではすまない。ハンセン病を発症してきびしい道を歩んだ人と女子高生たちの交流がいい。満田監督、手がたい。

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