茜色に焼かれるの映画専門家レビュー一覧
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フリーライター
須永貴子
本作から伝わってくる、作り手の社会に対する怒りは、自分のそれとほぼ同じ。クールどころかヘルなジャパンにおける、女性に対する冷酷かつ理不尽な仕打ちや、クソ野郎による狼藉が、シングルマザーの良子と、彼女の同僚の風俗嬢・ケイにこれでもかと襲いかかる。満身創痍でも気高く生きる良子は、荒れた海で船乗りに行き先を示す、今にも朽ち果てそうな灯台のような存在だ。この映画には、石井監督作品の常連俳優、池松壮亮の「映画は祈り」という言葉がふさわしい。
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脚本家、プロデューサー、大阪芸術大学教授
山田耕大
石井裕也には常にまなざしがある。半ば諦めながら見つめることをやめられないまなざし。それは弱者はもちろん強者にも向けられている。そのまなざしに見つめられている日本という国。ヘイト、排除、蔑視、虐待、蹂躙、暴言・暴力、保身、無責任等、ひと昔前には恥ずかしくてとてもやれないと思っていたことをみな当たり前のようにやっている。そんな中で、「ま、がんばろう?」と息子の肩を叩く母の渋い輝き! 石井のまなざしに捉えられた尾野真千子は素晴らしい。
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映画評論家
吉田広明
たまたま上級国民だったり、上司だったり、徒党を組んでいるからといって「他人を蔑ろにしてもいいと考える人たち」に対し、「他人を蔑ろにしないことを選択した人たち」を対置する。後者はいかにも石井作品にふさわしく、頭おかしいと言われながらも、明るく、我武者羅で、しかし傷つきやすい人々だ。国民感情を逆なでした事件を出発点としながら、えげつない展開に持っていく通俗に就くことなく、弱者の意気と連帯を、ユーモアをもって描いている点がこの映画最大の利点である。
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