迷子になった拳の映画専門家レビュー一覧

迷子になった拳

    ミャンマー伝統格闘技ラウェイの選手や大会関係者に迫ったドキュメンタリー。拳にバンテージのみを巻いて闘い、他の格闘技の禁じ手がほぼ許され、世界で最も過激な格闘技と言われるラウェイに挑む二人の日本人を通し、何故人は闘うのか答えのない問いを追う。監督は、「熊笹の遺言」の今田哲史。劇場公開に先駆け、2020年12月4日にK’s cinema、12月25日~31日にアップリンク渋谷、ほか各地で特別先行上映。
    • フリーライター

      須永貴子

      会社をクビになった40歳の監督の惑いと、23歳の格闘家の自分探しが、シンクロしながら進んでいく。事前に設定したテーマはなく、ラウェイという格闘技に魅せられた人々や、魑魅魍魎が跋扈する興行の世界にこわごわ迫った結果、最初は一人だった主人公が、出口では二人に増えている。被写体も作品も、迷子になっている姿を取り繕おうとしない青臭さが、完成度という尺度を突っぱね、私小説のような魅力を放つ。監督に被写体を利用する意図がないドキュメンタリーは清々しい。

    • 脚本家、プロデューサー、大阪芸術大学教授

      山田耕大

      格闘技オンチの僕は、“ラウェイ”というミャンマーの伝統格闘技のことはまったく知らなかった。拳にはグローブをつけずバンデージのみを着けて殴り合う。蹴り、頭突き、金的もOK。「世界で一番残酷な格闘技」。ほとんど喧嘩、いや下手をすると殺し合いである。このラウェイになぜ日本の若者が挑むのか、わからない。が、観ているうちにわかってくる。金や名誉のためじゃない。かれらは己と闘っているのだ。だから、「大切なのは勝ち負けではなく、続けること」なのだ。

    • 映画評論家

      吉田広明

      KO以外の判定勝ちがない、ランキングも、チャンピオンの防衛戦もない。最後までリングに立っていれば両者とも勇者として称えられるというミャンマーの格闘技ラウェイは、ルールの上に立っての勝ち負けが問題となるスポーツという以上に、ルールなき人生の方に一層近いように見える。神聖な競技とされるのはそのためなのだろうが、それに懸けた日本人競技者を「迷子」とするタイトルは、ラウェイをルール無用の過激さゆえにいかがわしいものと見なすバイアスに準じるかに見えて残念。

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