ビバリウムの映画専門家レビュー一覧

ビバリウム

第72 回カンヌ国際映画祭批評家週間にて、新しいクリエイターを奨励するギャン・ファンデーション賞に輝いたスリラー。若いカップルが不動産屋に紹介された住宅地を訪れたところ、住宅地から抜け出せなくなった上に、素性の知れない子を育てる羽目になり……。監督は、初長編「WITHOUT NAME(未)」がブルックリン・ホラー映画祭で作品賞など4冠に輝いた新鋭ロルカン・フィネガン。「ハミングバード・プロジェクト 0.001秒の男たち」のジェシー・アイゼンバーグと「グリーンルーム」のイモージェン・プーツが、奇妙な街から出られなくなるカップルを演じる。イモージェン・プーツは本作で第52回シッチェス・カタロニア国際映画祭最優秀女優賞を受賞。
  • 映画・音楽ジャーナリスト

    宇野維正

    金融危機前夜の住宅バブルと、古典的な地球侵略ものを結びつけるというアイデアはいい。それをシュールレアリスティックに表現したビジュアルのセンスもなかなか冴えている。ダブリンでグラフィックデザインを学んでいたという、監督のバックグラウンドにも納得。ただ、『世にも奇妙な物語』や『ブラック・ミラー』の一篇ならまだしも、そのワンアイデアだけで98分を押し切るには少々無策すぎたような。今後、長篇の構成力を身につけたら化けそうな監督ではある。

  • ライター

    石村加奈

    観たことを後悔するくらい、怖かった。目を背けたくなるようなグロい描写があるわけではない。練られた脚本に怯えた。カッコーの托卵をモチーフに、エイリアンの子供を育てることで、彼らに侵略されていく若いカップルの変化が不気味なほど静かに描かれる。図らずも子供を助けたことを後悔するジェマを「君はいい人間だからだよ」と慰めるトムに、ファジーな人間味が現れる。子供と眺める雲に向かって吠えた時、ジェマは正気だったのか、既に侵略されていたのか。印象的なシーンだ。

  • 映像ディレクター/映画監督

    佐々木誠

    マグリットなヴィジュアル世界でカフカ的展開が延々続く。主人公カップルと謎の子供(ほぼこの3人しか出てこない)の関係性、その発狂寸前の均衡から徐々に滲み出る静かな絶望。“パッケージ化された幸せ”に潜むリアルな悪夢がじっとりと迫ってくる。その地球外生命体(?)による「ゼイリブ」とは似て非なる地球侵略の残酷さたるや。氾濫する情報に乗っているつもりが、いつの間にか踊らされている我々の滑稽さを痛感させられまくる、珍しくあまり笑えない不条理スリラー。

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