漂流ポストの映画専門家レビュー一覧

漂流ポスト

亡くなった最愛の人への想いを届けるため、東日本大震災の被災地・岩手県陸前高田市の山奥に建てられた実在の“漂流ポスト”をモデルにしたドラマ。東日本大震災で親友の恭子を亡くした園美は、“漂流ポスト”の存在を知り、恭子宛の手紙を届けようと考える。出演は『越路吹雪物語』の雪中梨世、「ナラタージュ」の神岡実希。監督は「瞬間少女」の清水健斗。
  • フリーライター

    須永貴子

    中学時代の回想シーンが美しく、喪失の悲しみが増幅した。彼女たちが埋めたタイムカプセルから出てきた、「将来のお互い」に宛てた手紙。震災の前日にガラケーに残された、消せないボイスメッセージ。これらを使い、過去とかつての未来である現在を鮮やかに行き来する。記憶の風化を恐れて前へ進めなかった主人公が、漂流ポストに実際に投函された手紙を読み上げ、喪失の悲しみを分かち合うクライマックスで、ドキュメンタリーとフィクションが、有機的に作用し合っている。

  • 脚本家、プロデューサー、大阪芸術大学教授

    山田耕大

    東日本大震災のことは風化させることなく、ずっと心に留め続けておかなければならない。それはそうだが、それをモチーフにした映画をこうも数々見せられると、どうしても「またか」と不埒なことを思ってしまう。どうせなら漂流ポストのことをもっともっと教えてくれるようなものにしてほしかった。映画は「発見」である。「そうだっのたか」「まさか、それだったの?」みたいなことが欲しいのだ。とても丁寧に堅実に撮られていると思うが、どうしても既視感が付きまとってしまう。

  • 映画評論家

    吉田広明

    ガラケーに残された留守電、発見されて届けられたタイムカプセルの手紙。震災で亡くなった友達から自分に向けられた言葉たちに返そうとしても宛先はなく、声は空しく海に呑み込まれる。「風の電話」と似た話だが、あの作品が終わった地点から本作はさらに一歩を踏み出している。生き残ってしまった者たちから死者に向けられた言葉が、ポストを通じ誰かに受け止められ、シェアされることで空しい声を持つ生存者は救われるのだ。他者との関係性に開かれているこちらの方が一層深い。

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