けったいな町医者の映画専門家レビュー一覧

けったいな町医者

    映画「痛くない死に方」の原作者でもある在宅医・長尾和宏のドキュメンタリー。これまでに2500人を看取った経験をもとに、多剤処方や終末期患者への過剰な延命治療に異議を唱える長尾が、24時間365日、患者の元に駆けつける日常をカメラで記録した。ナレーションは、「痛くない死に方」で主人公を演じた柄本佑。監督は、「さそりとかゑる」の毛利安孝。
    • フリーライター

      須永貴子

      同じく終末期医療を題材にした「人生をしまう時間」や「痛くない死に方」を鑑賞済みの自分には、長尾和宏氏の人物像以外に、光るものを発見できなかった。死にゆく人に医師が向き合うシーンには必然性を感じるが、尊厳死に関して暴言を吐いた麻生太郎の国会答弁の映像など、それ以外のシーンでも多用されている長回しが冗長で、全体が間延びしてしまった。意義のある題材や魅力的な素材に甘えて、作り手が仕事を怠るという、人物ドキュメンタリー映像にありがちなミスが残念。

    • 脚本家、プロデューサー、大阪芸術大学教授

      山田耕大

      『安楽死特区』という小説を読んだ。著者は、この映画の主人公の在宅医だ。小説のほか著作物は数十冊に及ぶ。著作は贖罪だと本人は言う。その言葉がこの人を象徴している。退院して自宅療養にした途端元気になったという患者たち。大病院では末期ガンの患者に酸素とブドウ糖を大量に投与するが、それこそがガンの栄養になるという。つまりはガンの増殖を手助けして、患者を却って苦しめるのだ。患者を笑わせ、歌わせ、メシも食わせ、そして穏やかに逝かせる。人間を愛しているのだ。

    • 映画評論家

      吉田広明

      薬漬け医療を厳しく批判、患者との対話を重視し、その意思を尊重した在宅医療を実践する医者の話だが、彼の医療の諸相を通して現在主流の医療に疑問を投げかけることに重心を置くよりは(「痛くない~」の方に譲ったのか)、『情熱大陸』風の密着取材で、医師個人のキャラにもっぱら関心を向ける。「けったい」というタイトルも、実はこっちの方が真っ当でしょ、というしたり顔が見え、また多幸的なエンド・タイトルの後に一人の患者の死を描いて重く終わる構成も、いささかあざとい。

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