アリスの住人の映画専門家レビュー一覧

アリスの住人

「モラトリアム」「そこにあるもの」の澤佳一郎が児童虐待をテーマに描く最新作。家庭環境を失ったこどもを、里親や児童養護施設職員などの経験者が家庭に迎え入れる「家庭養育」。そのファミリーホームで過ごす少女たちが懸命に生きる姿を映し出していく。『Seventeen』の元専属モデルの樫本琳花、「スペシャルアクターズ」でカルト教団の教祖役を演じた淡梨、「カメラを止めるな!」のしゅはまはるみなどが出演。映画の構想は出演俳優たちや監督自身の家庭内での逸話から膨らみ、彼らのこれまでの人生や未来への願いが込められた内容となった。
  • 脚本家、映画監督

    井上淳一

    養護施設に入っている女子が3人。性的虐待にDVにネグレクト。それぞれが3本の映画になる重さなのに、本作はそれを64分でやろうとしている。だから未消化で物語のための材料にしかなっていない。監督も家庭内暴力の経験者だというが、ならば尚更こういう題材を扱う畏れがあってもいいのでは。なぜ主人公が施設に入ったかも金で性的奉仕しているのかも分からないのに、彼女と彼にしか見えない幽霊なんて出さないで。演出力もあり役者もいいのにもったいない。今度は長篇で覚悟の勝負を。

  • 日本経済新聞編集委員

    古賀重樹

    家庭で性的虐待を受けて傷ついた少女たちの再生へのあがきを描く。同じ境遇の少女たちが共同生活を送るファミリーホームを舞台にして、支える人や仲間たちも含めて描いたところに新味がある。葛藤を抱えながら立ち直ろうとする18歳の主人公を演じる樫本琳花の目力も魅力だ。ただ64分という短い尺の中にエピソードを盛り込みすぎて、主人公の内面の声や周辺人物の物語はいかにもステレオタイプ。セックスへの依存と嫌悪感という主人公のアンビバレンツをもっと見たかった。

  • 映画評論家

    服部香穂里

    児童虐待の長期的な影響に伴う苦悩を乗り越える術を、岐路に立つ18歳の娘を軸に、少し上と下の年代の3人の女性を通し模索する。主人公の抱えるトラウマの生理的な嫌悪感が、熟し過ぎの桃を実父が貪り食うショットを執拗に重ねて、観る者にも生々しく共有される分、恋の予感に揺れる彼女の、前に進もうと変化していく心模様の描写が、やけに淡白に映る。メッセージ性の強い尾崎豊のカヴァー曲の主題歌も、映画の表現不足を補う意味合いのようにも聴こえ、逆効果に思えた。

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