心の傷を癒すということ 劇場版の映画専門家レビュー一覧

心の傷を癒すということ 劇場版

NHKで放送された全4話のドラマを再編集。韓国にルーツを持ち、自分が何者なのか模索する安和隆は、人の心に関心を抱いて精神科医の道へ。やがて結婚して穏やかに暮らしていたある日、大地震が神戸を襲う。和隆は心の傷に苦しむ被災者に寄り添うが……。出演は「Red」の柄本佑、「ヤクザと家族 The Family」の尾野真千子。
  • フリーライター

    須永貴子

    このタイトルから、ひたすらに真面目なドキュメンタリーと思ったら、実在した精神科医を柄本佑が演じる、優良ヒューマンドラマだった。柄本が、相手に届く最低限の声量で、優しく語りかける言葉は名言だらけ。生真面目な演出とカメラワークから、医師の人間像や彼が放つ言葉が際立ち、作り手が彼を心底尊敬していることが伝わる。傷ついた心を癒やすことへの希望が、震災から復興した神戸の町並みを映し出すエンドロールに託されている。この作品にも、人を癒やす力がある。

  • 脚本家、プロデューサー、大阪芸術大学教授

    山田耕大

    これはNHKのテレビドラマの再編集であって、厳密には映画とは言えない。だが、とても質の高いドラマである。脚本の良さが際立つ。セリフの一つ一つがまるで祈りのようである。そのひと言で、その人物がどんな人間かが手に取るようにわかり、そしてそれが人を動かす。そういうのを完璧なセリフと言う。脚本の桑原亮子という人の名前を心に留めておきたい。話は無理なく編年体で語られていくが、決して飽きさせない。あざとさと無縁の、とても静かで品のいい演出もいい。

  • 映画評論家

    吉田広明

    心など訳の分からないものではなく、役に立つ学問をしろという実業家の父に対し、だからこそ知りたいという主人公が、回り回って有益になる逆説。役に立たないもの、目に見えないものを軽視し、それへの想像力を欠くことがいかに有害であるか。心のケアとは誰も一人ぼっちにしないことと主人公は言うが、コロナ下での現状を鑑みるに、未曾有の災害を多々経験しながら、日本が安氏の教訓を生かせているのか心もとない。災害時の心的外傷がどう現れるのかその諸相をもっと見たかった。

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