写真の女の映画専門家レビュー一覧

写真の女

SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2020 SKIPシティアワードを受賞した異色のラブストーリー。古ぼけた写真館を営む械は傷を負ったキョウコと出会う。彼女に頼まれ画像処理した傷のない美しい姿の写真を作り出したところ、理想と現実に挟まれキョウコは混乱する。監督は、『ブラックサンダー ラップバトルシリーズ』などのCM制作をする一方、「声」などの短編作品を手がけ国内外で評価を得てきた串田壮史。本作が初長編作品となる。劇団『青年団』の永井秀樹と、ダンサーとしても活動する大滝樹が、「声」から続いて共演。第15回大阪アジアン映画祭インディ・フォーラム部門にてプレミア上映。第3回門真国際映画祭最優秀助演女優賞(鯉沼トキ)はじめ国内外の映画祭で多数受賞。
  • フリーライター

    須永貴子

    デカルトの「我思う、ゆえに我あり」は、自身の存在を証明する言葉。本作では、「我撮られる」を超えて、「たくさんのいいね、ゆえに我あり」の地獄で女性が迷走。白いスーツと赤いドレス、傷を介した触れ合い、カマキリの交尾と共食いの接写、レタッチで原型を失っていく写真など、言葉ではなく視覚とオールアフレコの音がモザイクとなり、現代人の承認欲求や、生の実感を得ることの難しさを批評する。残念なのはやはりアフレコのセリフ。狙いだとしても、役者の技量不足に見える。

  • 脚本家、プロデューサー、大阪芸術大学教授

    山田耕大

    その昔、「かまきり」という韓国映画があって、シリーズ3まで作られた。カマキリのメスが交尾中にオスを食べるという習性をモチーフにしていた。この映画にはカマキリが全面に出てくるが、彼と彼女がその習性とリンクしているとは思えない。見合い写真の修正を頼む女が、「現実の自分より写真の自分のほうが人の印象に刻まれる」などと言うが、なるほど現実の物語より頻繁に出てくるイメージショットのほうが印象に刻まれる。が、劇映画にはリアルな物語がほしいのだ。

  • 映画評論家

    吉田広明

    主たる登場人物三人、少ないが意味深い台詞、的確な構図とショットの連鎖具合も見ていて気持ちがいい。写真の加工が容易になった現在、真と偽の境界の揺らぎを物語の核にした寓話。見合い写真をいじる悪い加工もある一方、死んだ娘の年を取らせることで父が救われる良い加工もある。逆に、傷をあえて出した真実の写真が、「いいね」狙いの悪い真実であったりもして、その是非は判定が難しい。ただ、もっと深い所に行けた哲学的=美学的な寓話をカマキリの怪異譚に着地は少し惜しい。

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