声優夫婦の甘くない生活の映画専門家レビュー一覧

声優夫婦の甘くない生活

エフゲニー・ルーマン監督が旧ソ連圏から移った経験を基に、ロシア系ユダヤ人の歴史の一幕を描いた人間ドラマ。声優夫婦ヴィクトルとラヤは1990年にロシアからイスラエルへ移住。しかし新天地では声優の需要がなく闇仕事に手を付け、二人は本音を噴出させる。イタリアの名匠フェデリコ・フェリーニにオマージュを捧げており、作中にはフェリーニの「ボイス・オブ・ムーン」のほか、「クレイマー、クレイマー」など往年ハリウッドの名作が登場。
  • 非建築家、美術家、映画評論、ドラァグクイーン、アーティスト

    ヴィヴィアン佐藤

    人は歪な多面体。長年連れ添っている夫婦だからといって相手の本質を見抜いているとは限らない。会ったこともない素性の知らない相手だからこそ、その人の本質の一部を理解していることもある。そしてその逆や勘違いもある。この作品はそんな様々な外部の解釈によって、人間の像は出来上がっていることを教えてくれる。すべてが虚構という妄想に取り憑かれた元政治家が出てくるフェリーニの「ボイス・オブ・ムーン」が流れる。虚構さえも現実や人間の一部なのかも知れない。

  • フリーライター

    藤木TDC

    90年代初頭のソ連解体と湾岸戦争を背景にした「ニュー・シネマ・パラダイス」だ。イスラエル映画らしい毒の効いた小品で、同時代経験がある世代にはダイヤルQ2や海賊版ビデオを持ち出す趣味が懐かしくも楽しい。私も90年代、新大久保の中国ビデオレンタルで多く学んだと思い出した(Q2については内緒)。当時はグレー商売にも間違いなく「映画の夢」があったのだ。移民と脱法産業がつながり生まれる社会の多文化化。黒い笑いからお前も内なる国家を解体しろと挑発される。

  • 映画評論家

    真魚八重子

    オフビートな雰囲気もまとっているが、上品ながら結構際どい設定になっていて明け透けなユーモアに引き込まれる。もう若くはない移民が暮らしていく厳しさに迫りつつも、中心となっていくのは夫婦のマンネリ化や心の移ろいだ。伴侶に嘘をつくスリリングさも善悪の裁きに持ち込まない裁量で、破壊には至らない一時の衝動の話として生々しい。アルトマンの「ショート・カッツ」で起きる地震のように、飽和状態に至った物語を爆発させるのが、イスラエルでは空襲警報なのだろう。

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