ジャスト6.5 闘いの証の映画専門家レビュー一覧

ジャスト6.5 闘いの証

2019年の東京国際映画祭で最優秀監督賞と最優秀主演男優賞をダブル受賞したイラン製犯罪映画。薬物撲滅警察特別チームのサマドは、薬物取引の大物ナセル・ハグザドを追い詰め、刑務所に送ることに成功。だがそれは、ほんの始まりに過ぎなかった……。出演は「別離(2011)」のペイマン・モアディ、「ウォーデン 消えた死刑囚」のナヴィド・モハマドザデー。
  • 非建築家、美術家、映画評論、ドラァグクイーン、アーティスト

    ヴィヴィアン佐藤

    まるで『歌舞伎町24時』の臨場感。ドキュメンタリー風なスピード感と、浅めの情感描写を滑走していくテンポ感が心地良い。犯罪抑制の啓蒙的な立場でもあるのだが、娯楽の域を保持。イランでの逮捕~留置~取り調べ~裁判~実刑の過程は、日本とはまるで異なりスピーディで、それはこの映画の展開の速度とも重なる。日本でお馴染みのカンヌで活躍しているイラン系映像作家たちとは、全く異なる趣向が新鮮だ。敢えて深みのある感情や哲学、割り切れない犯罪者の精神構造などは回避。

  • フリーライター

    藤木TDC

    異国趣味の強い個性的警察映画。緊張感が持続する撮影編集はヨーロッパ映画に近く、イラン娯楽映画の技術進化を示す。一方で刑事と犯人の比重が時々切り替わりどっちが主人公か戸惑うし、刑事アクション、警察・司法腐敗の実録告発、麻薬犯罪抑止の啓発などに趣意が拡散して一貫性を欠く印象も。イラン製男性活劇に興味のある私はその渾沌とした質感を地域性や独自性として面白がれるが、万人向けではなさそう。むさ苦しい中年ヒゲ男しか登場しないので、ヒゲ男愛好者はたまらんだろう。

  • 映画評論家

    真魚八重子

    緻密に描かれつつも大胆で疾走感のある社会派映画。無駄をそぎ落としてなお溢れる会話の中で、特に警察内での尋問シーンがイラン映画らしく得体が知れなくてイイ。麻薬密売関係者が正直な回答を避けるため、言い逃れをする際の無駄に感情表現を挟まない態度は、クライマックスでの死を巡る動揺を鮮烈に際立たせる。巨漢の男たちを使ったシーンも監督の余裕が見えるよう。好調な時期のシドニー・ルメット作品のような雰囲気とクオリティ。ラストカットもなんとも心がざわつく。

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