あの頃。の映画専門家レビュー一覧
-
映画評論家
北川れい子
このアイドルオタクたちの群像劇を観て、なぜか、赤信号、みんなで渡れば怖くない、というトンデモ川柳を思い出してしまった。年齢もキャラもバラバラなオタクたちの、推しを巡るハシャいだ会話や、文字通りの裸の付き合い。後半は同窓会的なノリの友情劇となるが、門外漢には一種の秘密結社にも見えるオタクたちの友情は、これはこれで説得力がある。俳優陣のアンサンブル演技もいい。そういえば今回の芥川賞はアイドルオタクを描いた宇佐見りんの『推し、燃ゆ』。オタクは強し!!
-
編集者、ライター
佐野亨
1979年生まれの劔樹人の原作を、75年生まれの冨永昌敬が脚色し、81年生まれの今泉力哉が監督して映画化。この三者の微妙な年齢差がおそらく重要で、主人公たちに対して一歩引いた距離感を保つ冨永のシナリオを、「同時代の子ども」だった今泉の視線のやさしさが包み込み、さらにそれを松坂桃李ら現代の若手たちが演じることで、「あの頃」が現在へと否応なく接続される。下手な俳優に演じさせたら臭みが先に立つセリフをいまおかしんじに言わせるバランス感覚も特筆もの。
-
詩人、映画監督
福間健二
原作は劔樹人の自伝的エッセイ。実話の窮屈さもあったはずだが、松坂桃李が劔を演じる。やってくれるなあと前半は思った。展開的に難なく収まる役どころが、ちょっと惜しい。群像劇。アイドルファンのとくにディープな例で関西だ。芸も音楽能力も達者揃いのキャスティングで楽しませる。冨永脚本も、今泉監督も、勝負は仲野太賀演じるひねくれ者コズミンの救い方か。覚悟の強靭さを感じさせる描き方だ。今日のイヤなやつ、面倒くさいやつ、哀れなやつたち図鑑への可能性を感じた。
1 -
3件表示/全3件