ノマドランドの映画専門家レビュー一覧

ノマドランド

「スリー・ビルボード」のフランシス・マクドーマンド主演、第77回ベネチア国際映画祭金獅子賞を受賞したロードムービー。リーマンショックにより家を失った60代のファーンは、現代のノマド(遊牧民)として、車上生活をしながら日雇い労働の現場を渡り歩く。「ザ・ライダー」で第70回カンヌ国際映画祭アート・シネマ賞を獲得したクロエ・ジャオ監督が、ジェシカ・ブルーダーのノンフィクション『ノマド: 漂流する高齢労働者たち』を基に、実在のノマドたちとともに今を生きる希望を見つめる。フランシス・マクドーマンドはプロデューサーとしても参加。第45回トロント国際映画祭観客賞受賞。第33回東京国際映画祭特別招待作品部門上映作品。2021年第95回キネマ旬報ベスト・テン外国映画第1位、外国映画監督賞、読者選出外国映画監督賞受賞。
  • 非建築家、美術家、映画評論、ドラァグクイーン、アーティスト

    ヴィヴィアン佐藤

    いまもっとも話題作。古来から人類は移動を繰り返してきた。土地や家屋を所有する意味とは。土地に価値がつけられ値段が決定されるが、国債や金融商品のように変動し流動する。「資本」主義そのものが固定を拒み続ける制度だ。企業は商品ではなくシステムを開発し、その権利を所有する。そして自らを食い尽くしていく。そのとき人類は希望や幸福をどこに見出すことが可能なのか。時代を超越した美しい映像によって迷子になった我々は、初めて生きる価値について直面させられる。

  • フリーライター

    藤木TDC

    コロナ後の未来像を予感させる興味深いライフスタイルを提示。しかし原作本にあるワーキャンパーの過酷さや困窮を自由や心地良さと曲解させる優雅な演出には違和感。金持ち向けの映画祭映画になり、快適なシネコンでゆったり見ても観光気分以外に得るものはない。似た題材の作でどこかに仕込まれることの多い暴力や極限状況の描写がなく、映画を平和な物語にしている反面、起伏に欠ける不満も。終盤は風景描写ばかりで息切れ。格差を訴える映画では貧しき民はいつも耐えるのみだ。

  • 映画評論家

    真魚八重子

    家を失いさすらう者となりつつ、自己憐憫に陥らず尊厳をもって生きる女性。その生活の身体的、経済的に苦しい現実に迫りながらも、大自然は厳しさだけでなく神秘的な姿も現す。やはり自らさすらう女を描いたA・ヴァルダの「冬の旅」と比較して、本作は主人公に対し他者も自然も優しい。女である弱みにもつけ込まれず、救いは毎回あって、悲愴な域には踏み込まずに車上生活者の暮らしを描く。ノマドたちの交流会もヒッピーの理想形でちょっと口当たりが良すぎやしないかとも思う。

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