粛清裁判の映画専門家レビュー一覧

粛清裁判

旧ソ連出身の鬼才セルゲイ・ロズニツァが、1930年にモスクワで行われた見せしめ裁判“産業党裁判”のアーカイヴ・フィルムから、独裁政権誕生の過程に迫ったドキュメンタリー。無実の罪を着せられた被告人と、捏造した罪で彼らを裁く権力側の共演の記録。第75回ヴェネチア国際映画祭正式出品。
  • 映画評論家

    小野寺系

    現存する記録映像を編集し、新たなドキュメンタリー作品に仕上げる試みだが、その出来は予想以上。政府に与しない識者たちが公衆の面前で悪者にされ、さらに失政のスケープゴートにまでされ処刑へと進んでいく狂騒が、凄まじい迫力で蘇る。最近の日本の学術会議問題のように、政府の暴走やデマに煽られて過激化する市民の姿を克明にとらえた構図には、時代や場所を超えた普遍性が存在する。基になった映像にも力があるが、資料をここまでのものに仕上げた手腕と発想力がすごい。

  • 映画評論家

    きさらぎ尚

    資料を読んでから作品を見たのだが、スターリンの仕組んだこの裁判の異常さにはただ驚くばかり。産業党なる存在しない党をでっちあげ、被告たち全員が当局に事前に指示されたシナリオに沿って陳述し、捏造された罪を揃って認めている。傍聴する大勢の市民は観劇を楽しむかのよう。いや裁判官、被告、傍聴人の別なく、この裁判自体が滑稽な演劇と映る。権力がここまで徹底して演劇的空間を作り出したとは!? スターリンの見世物裁判に戦慄しつつ、歴史は過去でない、が胸をよぎる。

  • 映画監督、脚本家

    城定秀夫

    架空の党の架空の破壊工作の罪に問われる無実の学者たちを入念なリハーサルを経たであろうでっち上げ裁判で有罪にするという、プロパガンダ目的の記録フィルムを再編集した本作、劇団スターリンの裁判官や検事はおろか、被告人までもが台本通りに演じ聴衆を熱狂させる見事な裁判劇になっており、資料として貴重なうえ、独裁政治の非道や、映画が時として悪魔の道具になる恐怖についても考えさせられるのだが、嘘と分かっている茶番を解説なしに2時間観通すのはちょっとキツかった。

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