国葬の映画専門家レビュー一覧

国葬

    旧ソ連出身の鬼才セルゲイ・ロズニツァが、スターリンの国葬の映像から社会主義国家の真の姿を解き明かすドキュメンタリー。発見された大量のアーカイヴ・フィルムには、モスクワに安置された指導者の姿や、その死を悲しむ幾千万人の人の顔が記録されていた。第76回ヴェネチア国際映画祭正式出品。
    • 非建築家、美術家、映画評論、ドラァグクイーン、アーティスト

      ヴィヴィアン佐藤

      スターリン葬儀の1日。指導者の肉体と国家の肉体、ソ連の地方都市と首都モスクワ、モノクロームとカラー、顔のない群衆と個々の顔顔顔。様々な二項対立が振り子のように何度も往復し、ソ連の国土や国民の意識、映像の本質を隈なく網羅していく圧倒性。地球には西側以外にもうひとつの巨大な世界が存在していた。「撮影がなされなければ存在しない」という20世紀から続くテーゼを証明しているかのようだ。撮影しているカメラはただの一台。宗教のない星の人々の畢竟の大作。

    • フリーライター

      藤木TDC

      圧倒される発掘フィルムだ。超大国ソ連の国家行事を最大規模で撮影したアーカイヴであると同時に、沈鬱な人間の顔をひたすら映すだけで何も起きない壮大なアンビエント映画でもある。酷寒期のスターリン葬儀の3日間、膨大な参列者が映っているにもかかわらずニヤけた顔がひとつもなく、その深刻の重層は全体主義の圧力と緊張を客席にも強く伝える。国家体制はまさに民衆の顔に象徴されるのだ。「東京オリンピック」「金日成のパレード」などと見較べたい国家行事映画の新しい古典。

    • 映画評論家

      真魚八重子

      悲喜の感情を顔に表す人がいない粛々とした葬列。これは映画と名乗られれば映画というしかないけれども、記録フィルムをつないだものと形容するのが正しいだろう。編集に意図的な時間の流れがあるわけでもないので、スターリンの国葬を捉えた映像のかたまりとしか形容できない。史料価値はあるけれども部外者が長々と観るには……。ロシア史や独裁者について研究している人が資料として観るのがふさわしいと思う。これまで経験した映画鑑賞の中でもワースト3に入る苦行だった。

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