完全なる飼育 etudeの映画専門家レビュー一覧
完全なる飼育 etude
数々の衝撃作を送り出してきた「完全なる飼育」シリーズ第9弾。演劇界の寵児として一世を風靡するも観客動員が伸び悩んでいる女性演出家・小泉彩乃。公演初日2日前に主演俳優が突然降板してしまい、代役のオーディションを行ったところ、篠田蒼という青年が現れ……。出演は「変態だ」の月船さらら、「プリンシパル 恋する私はヒロインですか?」の市川知宏。監督は、木村大作、降旗康男といった監督のもとで助監督を務めてきた加藤卓哉。
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映画評論家
北川れい子
女性演出家と若手男優が、密室化した劇場のセットが組まれた舞台の上で、現実と虚構(芝居の世界)を反転、反復させていく――。コンパクトなりに重量感がある設定で、俳優たちもツバが飛ぶような大熱演。シビアな演出も、ライティングが効果的なカメラも、抜かりがない。説明ゼリフが多いのが気になるが、ま、ギリギリ、セーフ。が残念なのは、孤独を口実にしたメロドラマもかくやのエンディング。「飼育」シリーズの定番といえばそれまでだが、折角の野心作もこの着地では徒労感が。
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編集者、ライター
佐野亨
松田美智子のノンフィクションから出発したこのシリーズ、いまでは特定の密室空間における男と女というシチュエーションを応用し、それぞれの作り手の性的観念を披歴する実験場と化しているが、その意味で今回は密室の設定に捻りが効いていて、長期シリーズならではの重層的なたくらみがうかがえる。実相寺昭雄の偉大なる失敗作「悪徳の栄え」を思わせる舞台装置のなかで、月船さららの身体性が存分にはじけているが、なによりそれを陰翳豊かにとらえた撮影・池田直矢の功績が大。
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詩人、映画監督
福間健二
月船さららのヒロインは、芸術について根本的に錯覚しているとしか思えない劇作家。市川知宏と金野美穂の演じる男女二人だけが出る、江戸時代が舞台の、その作・演出の劇のリハーサルが主な内容。劇の中身に現実の人物の葛藤が絡む。濃い目に凝った画づくり。加藤監督、こういう趣味なのか。それとも、いまへの強烈な主張があるのか。どっちだとしても、表現についてヒロイン同様のカンちがいがあると思う。鳥肌立ちながら、部分の質感に労力と真剣さを感じるだけにつらい気がした。
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