おもかげの映画専門家レビュー一覧

おもかげ

第91回アカデミー賞短編実写映画賞にノミネートされた「Madre」のその後を綴った人間ドラマ。エレナの元夫と旅行中だった幼い息子が行方知れずに。それから10年後、海辺のレストランで働くエレナは、息子の面影を宿したフランスの人少年ジャンと出会い……。「ゴッド・セイブ・アス マドリード連続老女強姦殺人事件」のロドリゴ・ソロゴイェン監督が短編「Madre」から引き続きメガホンを取り、息子を失ったひとりの女性の希望と再生を描く。短編「Madre」でも主演したマルタ・ニエトが第76回ヴェネチア国際映画祭オリゾンティ部門主演女優賞を受賞。
  • 映画評論家

    小野寺系

    物議を醸した自作の短篇映画を基に、さらに倫理観を揺るがす物語を今回くわえているように、映画が話題となる術を知っている頭のいい監督といえる。また、描かれる事件や切迫した演技に対して、わざと落ち着いてスマートな印象を保つ演出は、むしろリアルで効果的だ。その一方で、「ベニスに死す」のタジオを連想させる登場人物を持ち出し、母子の愛情とも恋愛ともつかぬ曖昧な関係を描くことに妥当性があったのかは疑問に思う。この親子の性別が逆転すれば、成り立たない話だろう。

  • 映画評論家

    きさらぎ尚

    可愛い盛りの息子が旅行先で行方不明になったまま10年。この容赦ない状況におかれた母親の心情は想像するだに辛い。監督のロドリゴ・ソロゴイェンは、母親に息子の面影がただよう少年との出会いを用意しているが、それは母性愛を癒すためか、あるいは年上の女性の少年愛か。はたまた全く別の何かがあるのか。いずれにせよその正体は分からずじまい。監督の「目的をもって撮ったわけではない」というコメントを何かで読んだが、見終わって残るもやもや感はここに起因している。惜しい。

  • 映画監督、脚本家

    城定秀夫

    感情の揺れと人物の動線を極限点まで計算した長回しにより初期設定を一気にセットアップしてしまう超絶技巧を冒頭から見せつけ、その後も緩むことなく紡がれてゆく痛々しい喪失の物語はいつしか女性と母性がもつれ合った地獄のような悲恋物語に姿を変え、それが幸せに見えるほどに結末の悲しみが増してゆくと分かっていながらも彼女が笑うことを祈ってしまうのは自分ばかりではなく、残酷なる創造主の眼差しにもかくなる優しさの片鱗が見え隠れしていることにわずかの救いを感じた。

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