アイヌモシリの映画専門家レビュー一覧

アイヌモシリ

現代のアイヌ民族の姿を映し、第19回トライベッカ映画祭コンペティション国際長編部門審査員特別賞に輝いた人間ドラマ。アイヌコタンで暮らす少年カントは父を亡くしてからアイヌ文化から遠ざかっていた。デボはアイヌの精神や文化について教えていくが……。監督は、デビュー作「リベリアの白い血」が第65回ベルリン国際映画祭パノラマ部門に正式出品された福永壮志。主人公・カント役の下倉幹人はじめ、アイヌの血を引く人たちが主要キャストを務め、三浦透子やリリー・フランキーらがゲスト出演している。
  • フリーライター

    須永貴子

    アイヌの人々が現在向き合っているものを(おそらく丹念な取材で)拾い集め、アイヌの少年の成長物語として再構築。森や湖で、思春期とアイデンティティーというダブルのゆらぎに惑う少年を捉えた映像美に目をみはるものがある。民謡や舞踊、民芸品や祭事などを、物語の装飾ではなく必要なものとして扱っており、アイヌの文化や人々だけでなく、映画への敬意が滲む。檻に入れられた子熊の側から少年にカメラを向けたショットの意図的な違和感を、終盤で回収する手腕も巧み。

  • 脚本家、プロデューサー、大阪芸術大学教授

    山田耕大

    アイヌの古来からの習俗や儀式がしっかり描かれていて、とても興味をそそられた。「イヨマンテ」と言えば、古関裕而が作曲した〈イヨマンテの夜〉を思い浮かべてしまうが、熊を殺してその魂を神へ送り出すアイヌの大切なこの儀式が、野蛮だといって一時禁止されたことを初めて知った。少年は亡父の友人が飼う子熊を飼育するように言われるが、それがやがてイヨマンテでの生贄になると思って、逃がそうとする。そこに葛藤・劇があるが、あまりしっくり来てはなかった。

  • 映画評論家

    吉田広明

    イヨマンテは観光客を排して、アイヌのアイデンティティを再確認するため自分たちのためだけに行われ、閉ざされている。固有性を維持するためには閉ざすという選択は、開かれることを礼賛するグローバリズムへの批判ともなりうる。観光地化に疑問を持ちつつ、イヨマンテにも小熊可愛さから踏み切れない主人公の少年という視点を設け、その成長物語とすることで緩和されているが、本来一層激しい社会葛藤劇(例えばクジラ・イルカ漁の是非を思えばそれが想像できる)もありえた。

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