マロナの幻想的な物語りの映画専門家レビュー一覧

マロナの幻想的な物語り

    一匹の雑種犬が辿る数奇な運命を、独特のアート表現で綴ったアニメーション。ハート型の鼻を持つ雑種犬のマロナは、9匹の兄弟の末っ子。生まれてすぐに家族から引き離され、曲芸師やエンジニア、幼い少女など、様々な飼い主の元を渡り歩くことになるが……。アヌシー国際アニメーション映画祭観客賞を受賞するなど、世界的に高い評価を得た「ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん」のロン・ディアンがプロデューサーを務める。東京アニメアワードフェスティバル2020で長編コンペティション部門グランプリを受賞。
    • 映画・音楽ジャーナリスト

      宇野維正

      劇団イヌカレーの作風にも少し似た、背景の細部まで創意とギミックに溢れたアバンギャルドなアニメーションに加えて、終始饒舌にモノローグを続ける主人公の犬マロナ。かかっている手間や時間も、そして作品のナラティブそのもののも、どう考えても短篇のテンションなのに、それが90分以上も続くことにまず面食らう。犬と一緒に暮らしてきた立場からすると、犬の過度な擬人化については要所要所で疑義を挟みたくもなるのだが、それを言うのは野暮というものだろう。

    • ライター

      石村加奈

      マロナ誕生の瞬間から、アニメーションならではの表現にワクワクする。曲芸師マノーレのしなやかな曲線の動きも、イシュトヴァンの年老いた母がパンケーキを焼く、軽快なシーンも、ソランジュ少女と出会った時の、あかるい黄色い世界も、表現の豊かさに魅了された。しかしマロナ(およびマロナを取り巻く人々)の人生は淋しい。振り返って、昔が楽しかったから(今が)淋しいのではないと気づくと、マロナが可愛いよりも可哀想で(敬礼するマロナに涙)、呑気な猫が羨ましく見える。

    • 映像ディレクター/映画監督

      佐々木誠

      一匹の犬が自分の人生(犬生?)の終わりにそれまでの物語を巻き戻し、自ら語って振り返るのだが、この声を担当するリジー・ブロシュレのハスキーヴォイスが良い。動物を飼ったことが一度でもある人間には沁みまくる言葉の数々。2Dと3Dを融合した前衛絵画的アニメーションの世界観、色彩感覚が素晴らしく、監督のめくるめくイマジネーションを忠実に具現化していて、その没入感が気持ち良い。しかし常に不穏な空気が漂っているのは、死と生の境界線を描いているからだろう。

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