空白の映画専門家レビュー一覧

空白

古田新太、松坂桃李初共演、吉田恵輔監督・オリジナル脚本で贈る「空白の時代」とそこに生きる人間の業を炙り出すヒューマンサスペンス。中学生の少女の万引き未遂事件と逃走中の不幸な死。追いかけた店長は少女の父親の逆襲にあい、人生を脅かされていく。人と人のつながりや家族の絆の希薄さ、そしてメディアの狂乱も手伝い、思わぬ方向に感情が増幅してしまう危険をはらんだ現代社会。やがて登場人物たちは、愛と憎しみの果てに「全員被害者・全員加害者」の様相を呈していく。偽り、圧力、良心の呵責……空白の時間に起きた事件が生み出す人々の心の空白。その空白は何で埋められるのか? 一見沈鬱に見える題材をシニカルかつブラックユーモアを交えた視点で描くのは、「ヒメアノ~ル」「愛しのアイリーン」の吉田恵輔監督。観る者の心臓をあわだてる悪夢のような父親・添田充に、劇団☆新感線の看板役者の古田新太が扮し、7年ぶりの主演作を完成させた。土下座しても泣いても決して許されず、人生を握りつぶされるスーパーの店長・青柳直人に、「新聞記者」でアカデミー賞最優秀主演男優賞に輝いた松坂桃李。企画・プロデュースは、「あゝ、荒野」「新聞記者」「宮本から君へ」など話題作を世に送り出してきたスターサンズの河村光庸。
  • 脚本家、映画監督

    井上淳一

    対立と葛藤がドラマならば、田恵輔の登場人物はそれらを他者との関係ではなく、あくまでも自分の中で処理しようとする。自分を赦せて初めて他者を赦せる。拳闘を描いてさえそうなのだから、本作も然り。それが極めて今っぽい。が、文学でなく映画でやるのは容易なことではない。現実を安易に借り物競走せず、時代を描くという離れ業。フィクションとしての強度。脚本に嫉妬。演出には嫉妬すら出来ない。これで松坂桃李がもう少し分かれば。今年のベスト・テン、前作と2本入るか。

  • 日本経済新聞編集委員

    古賀重樹

    人間関係の機微を繊細かつリアルに描いてきた吉田恵輔監督のまなざしがついに社会に突き刺さった。懲罰意識が異常に高まった不寛容な社会、安全な位置から無責任に標的を非難する群衆、事なかれ主義で人を切り捨てる組織、分断と対立をあおり増幅させるメディアとネット。そんな社会を「空白」と名付けてタイトルとしたところに、この作品の志の高さが読み取れる。吉田の冷徹な観察眼と確かな演出力に拍手を送りたい。古田新太の暴走する身体を初めて正面からとらえた映画でもある。

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