マルモイ ことばあつめの映画専門家レビュー一覧

マルモイ ことばあつめ

「タクシー運転手 約束は海を越えて」の脚本家オム・ユナによる初監督作。民族の言葉が消えゆく1940年代の京城。窃盗などで生計をたてていたお調子者のパンスは、盗んだバッグを巡って朝鮮語学会代表ジョンファンと出会い、彼のもとで雑用係として働き始める。出演は「犯罪都市」のユン・ゲサン、「1987、ある闘いの真実」のユ・へジン。
  • 映画・音楽ジャーナリスト

    宇野維正

    ストーリーの面白さや作品の意義はともかく、映画的には凡庸な仕上がりだった「タクシー運転手」の脚本家オム・ユナの監督デビュー作。135分も尺がありながら、主題を台詞で説明するダイジェスト的導入部から腰砕け。のっぺりとした照明による緊張感のない画面から、ダメ押しのように興を削ぐミスマッチで大仰な劇伴。演出上の創意も、国外公開される近年の韓国映画の前提条件となっている国際水準の技術も覚束ない本作。印象に残るのは、描かれた歴史的事実の重さだけだ。

  • ライター

    石村加奈

    日頃から言葉を疎かにしている自覚があるので「言葉は精神だ」という台詞が耳に痛かった。40歳を過ぎて読み書きを学んだ主人公が、街中の看板や小説を読み、世界を広げていくよろこびを名優ユ・ヘジンがあかるく体現する。言葉同様、礼儀も大切だ。怪我人を見たら、まず怪我の理由を尋ねる礼儀を弁えた主人公は、やがて同志の窮地を救う。主人公の幼い娘(可愛い!)は、本作を観ている私たちと同じ、今という時代を生きているのかもしれない。観る者を自分事にする、力のある映画。

  • 映像ディレクター/映画監督

    佐々木誠

    日本統治時代の韓国、実際にあった事件を市井の人々の目線で描き、全篇笑いあり、涙あり、アクションありで飽きさせない。と思ったら「タクシー運転手」脚本家の監督作だった。主人公はいい加減なお調子者だが、弾圧に対抗する人々と偶然知り合い、戦いに巻き込まれていく、という展開も近いが、この非識字者の男が「言葉」を守るために自らを犠牲にして立ち向かう姿にはやはり胸が熱くなってしまう。虚実皮膜のバランスが絶妙、クライマックスの舞台が映画館というのも上手い。

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