鹿の王 ユナと約束の旅の映画専門家レビュー一覧

鹿の王 ユナと約束の旅

『精霊の守り人』の上橋菜穂子のファンタジー小説を原作にしたアニメーション。かつて故郷を守るために戦い、今は奴隷に身を落としたヴァンは、不思議な犬の群れの襲撃の隙を突いて脱走。一方、病が広がる王幡領では、医術師ホッサルが治療法を探していた。「千と千尋の神隠し」、「君の名は。」などで作画監督を務めてきた安藤雅司の監督デビュー作。「伏 鉄砲娘の捕物帳」の宮地昌幸が共同監督を務める。
  • 映画・音楽ジャーナリスト

    宇野維正

    「妻子を失った中年男性」という主人公の設定。台詞やナレーションに頼ることなく原作の世界設計をじっくりと観客に理解させて、風呂敷を広げすぎることなく綺麗に物語を着地させていること。映画化の際にそれらがどのように検討されていったのかはわからないが、結果的に現在の国内アニメ映画へのアンチテーゼとなっている。もう一人の主人公が、難病の治療法を研究する医療従事者(医術師)であるという同時代性も、ただの偶然ではなく、そんな製作サイドの志が引き寄せたのだろう。

  • 映画評論家

    北川れい子

    かなり馴染みにくい人名、地名などの固有名詞には戸惑うが、物語を引っ張っていくキャラクターと場面ごとの画像に風格とパワーがあり、安藤雅司監督の作画力に敬服する。ザックリ言えば、奇病が蔓延する世界を、帰るべき故郷のない元戦士が、みなしごの幼女と子連れ狼的な旅をする話に、奇病の解明に挑む若き医術師が絡んでいくのだが、異なる民族や種族のエピソードなどもスリリング。冒頭の岩塩鉱場面も生々しい。そして大自然の魂のような生きものたち。ぜひシリーズ化を。

  • 映画文筆系フリーライター

    千浦僚

    思い返せば自分の娘が二、三歳の頃、片腕で抱き上げられる体重十数キロの頃は抱っこして歩くといつまでもどこまでも歩ける気がしたものだ。岩や米袋を担ぐのと違い時折ぽわぽわした手でギュッと掴んできたりするから一緒だと独りで手ぶらで歩くよりも長く遠くまで歩いてしまえると思った。「子連れ狼」なんかが表現していたことがわかったわけだが、そういうことは本作にもあった。モンゴルと風の谷が合体したような世界は目に心地よかったが、帝政のゆるぎなさは不気味だった。

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