椿の庭の映画専門家レビュー一覧

椿の庭

大手企業の広告を手掛ける写真界の巨匠・上田義彦の初監督映画。夫を失い、今では亡き娘の忘れ形見である孫娘・渚と共に暮らす絹子。夫の四十九日を終えた彼女が、過去の記憶に想いを馳せ、慈しみながら過ごしていたある日、一本の電話がかかってくるが……。出演は「散り椿」の富司純子、「新聞記者」のシム・ウンギョン、「食べる女」の鈴木京香、「黒衣の刺客」のチャン・チェン。
  • フリーライター

    須永貴子

    古い日本家屋での暮らし、手入れの行き届いた庭園の季節の移ろい、三世代の女優。これらを映し出す映像の美しさが圧倒的だ。時間の流れの緩やかさと、濃密で潤いのある緑に、台湾映画に通じる楽園の匂いを感じていると、チャン・チェンが登場。唐突感と違和感は否めなかったが、世界観との相性の良さで押し切った。古き良き暮らしを尊んで終わるのではなく、未来へと自立する若い世代へのエールも伝わる。とはいえ128分は長い。監督以外の人がシビアに編集した版が観たい。

  • 脚本家、プロデューサー、大阪芸術大学教授

    山田耕大

    庭の手水鉢に泳ぐ金魚、椿などの庭の様々な花々、緑の葉に這う虫や鳥の囀り。着物を着つけた初老の夫人の気品ある所作、その孫の素朴で瑞々しい佇まい。それらすべてが「美しい」のだ。いやになるほど聞かされ、見せられてきた日本の美。きれいに撮るものだなと思っていたら、監督は広告写真の名手らしい。物語はあまりにも予定調和で、やっぱりこうなんだなと思うことの連続である。それはそれで完成度が高ければいいとも思うが、いかんせん心に残るものはあまりなかった。

  • 映画評論家

    吉田広明

    庭があり、広縁がある、木造で、光線の柔らかい昭和のごく普通の住宅(といっても海が見える相当良い立地だが)。記憶が宿っていると言う言葉がすんなり腑に落ちる。登場人物たちだけでなく、カメラ自体もその家への愛惜を抱いているかのような映像は、カメラマンが監督だけに確かに見事なのだが一本調子。家をほとんど一歩も出ない作劇、死ぬ金魚や断末魔の蜂、落ちた椿など、象徴があからさまなのもその単調さに輪をかける。家を大切にすると言って買収しつつ破壊という展開もあざとい。

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