無頼の映画専門家レビュー一覧
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フリーライター
須永貴子
アウトローの視点から語られる戦後の昭和クロニクル。某銀行への糞尿撒き散らし事件やオイルショックなど、実際に起きた出来事をフィクションに織り交ぜる試みは面白い。だが、多くの人物や事象を媒介する主人公が弱い。カメラワークは良く言えば硬派でストイックだが、悪く言うと平板で艶っぽさがない。結果、手のひらから時間がサラサラとこぼれ落ちていく146分。ホステスから頼もしい姐さんになっていく紅一点が、主人公にとって以上に、映画において大きな存在感を示す。
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脚本家、プロデューサー、大阪芸術大学教授
山田耕大
石川力夫のことが頭に浮かんだ。言わずと知れた深作欣二監督「仁義の墓場」のモデルになった実在のヤクザだ。仁義に背いて狼藉の限りを尽くし、最後に刑務所の屋上から飛び降りて死んだ。辞世は「大笑い三十年の馬鹿騒ぎ」。8年ぶりというこの映画、井筒節は健在だ。井筒氏ならではの諧謔! 主人公のヤクザは石川とは真逆のしごくまっとうな人間に見える。たまたまヤクザになった普通の人間の半生はそのまま日本の戦後史になり、歴代のヤクザ映画へのオマージュになっている。
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映画評論家
吉田広明
ヤクザ映画というよりは、戦後から昭和の終わりまでを生きた男たちの群像劇と見るべきなのだろうが、時代を描きたいのか人間を描きたいのか、どっちつかずで結局何物にもなりえていない。主人公が偶々見かけたいい女を妻にする。しかしその偶々を必然にするのが映画ではないのか。偶々が偶々のままで単なる役割に終始するなら描く意味はない。一事が万事その調子で、要は思想がないので、人間にも出来事にも必然性が感じられず、それっぽい場面場面が連鎖するだけに見えるのだ。
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