一度も撃ってませんの映画専門家レビュー一覧
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映画評論家
川口敦子
映画史上に刻まれるような大傑作ではないけれど、なんだか退け切れない磁力を発するお愉しみ作。毎日つきあいたくはないけれど、たまに会うと朝までついついのりのりでいってしまうというような、そんな腐れ縁の悪友みたいに愛でたい一作だ。日本映画のひとつの時代を共有した俳優たちと脚本丸山の、腐臭に堕す一歩手前の遊びっぷりを、賢明な弟を思わせる阪本監督がそつなく束ねてみせる。ハードボイルドをめぐる新旧世代の温度差に爆笑しつつ、身につまされる。
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編集者、ライター
佐野亨
ハードボイルド受難の時代にハードボイルドを復興させようとする試みがここ数年のあいだに散見されたが、ジャンルの要諦を知り尽くした作り手たちによるこの映画は、ハードボイルドが「ハードボイルド風ノベル」に取って代わられる時代の趨勢を見据えつつ、「かっこよさ」の自明性に疑義を呈し、それでもかっこつけざるをえない者たちを優しく包み込む。タイトルといい、新宿文化の名残を宿した俳優たちといい、若松孝二「われに撃つ用意あり」の20年ごしの返歌といった趣も。
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詩人、映画監督
福間健二
丸山脚本の作品で内面や世代を感じさせるもの、あっただろうか。本作も、過去からの必然もそれへの抵抗もあまり関係ない道具立て。ただ脚本家の経験からの疲労感が、冗談のように、主人公の小説家石橋蓮司の道の踏み外しを思いつかせた気がする。見どころは桃井かおりと大楠道代の対決。ともに意地を感じさせるが、「後輩たち」は芸能界的につきあっているだけだ。阪本監督、このくらい撮って当たり前とやっぱりなにかありそうとの間を往復するうちに、彼らしさを曖昧にしている。
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