あのこは貴族の映画専門家レビュー一覧

あのこは貴族

山内マリコの同名小説を基にした、「グッド・ストライプス」で新藤兼人賞金賞を獲得した岨手由貴子監督による人間ドラマ。都会生まれの箱入り娘・華子と地方から上京し自力で都会を生き抜く美紀。境遇の異なる二人が巡り合い、自分の人生を切り開こうとする。結婚こそが幸せと信じていた箱入り娘・華子を同じく山内マリコ原作の「ここは退屈迎えに来て」に出演した門脇麦が、上京組ながら都会にしがみつく意味を見いだせない美紀を「奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール」などに出演、モデル・デザイナーとしても活動する水原希子が演じ、違う階層に生きる女性たちの葛藤と成長を描く。
  • 映画評論家

    北川れい子

    ストーリー、キャラクター、演技、演出、盛り付けもみごとな頼もしい秀作。日本人には上流階級は描けないと言ったのは確か三島由紀夫だが、そこはほどほどにして、お嬢さま育ちの門脇麦の芯の強さを柔らかに描き出し、一方で地方出身・水原希子の、都会での立ち位置の曖昧さを絶妙に描く。大学内のヒエラルキーを描いた「愚行録」を連想させるような場面もあるが、冷静な遠景に留めているのも巧い。この作品に限っては役名より演じている女優たちの名前を先行したい。岨手監督、凄い!!

  • 編集者、ライター

    佐野亨

    近年の少なからぬ作品が、ジェンダーや階層に対して「無効化」をもって抗おうとした結果、却ってある種の息苦しさを抱え込んでしまうのとは一線を画し、この映画は現在の社会における「女性性」「男性性」の自明性を直視し、そのうえでそれを成立せしめる構造的な問題へと観る者を自然にいざなう。「グッド・ストライプス」でもそうだったように、あくまで個人のドラマに立脚した岨手由貴子監督の誠実さが光る。自分事として役を生きた門脇麦、水原希子も素晴らしい。

  • 詩人、映画監督

    福間健二

    東京の金持ち階級の、結婚相手を見つけるのに苦労する令嬢が門脇麦。どんな家族で、彼女がどう大変なのかを見せていき、ついに理想的な相手らしい高良健吾に出会うまでの第一章は、役ではなく演じる門脇に同情したくなるほどの誇張感。水原希子が登場する第二章以降は悪くなかった。女優陣、それぞれ意地と思考力ありの役にしている健闘ぶり。とくに水原の輝きは、脚本的にもうひと伸びあれば文句なしだった。岨手監督、手堅く「細雪」以来の女性物の系譜に新しいページを加えた。

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