痛くない死に方の映画専門家レビュー一覧

痛くない死に方

在宅医療のスペシャリスト・長尾和宏のベストセラーを「赤い玉、」の高橋伴明が映画化した人間ドラマ。痛くない在宅医を選択したはずの末期がん患者が苦しみ続ける最期を迎えてしまい、在宅医の河田は先輩の長野からカルテではなく本人を見るよう指摘される。壁にぶつかりながら医師として成長する河田仁を「火口のふたり」の柄本佑が、先輩医師の長野浩平を「赤い玉、」の奥田瑛二が演じる。原作者の長尾和宏が医療監修を務めている。劇場公開に先駆け、第45回湯布院映画祭の秋の陣にて特別試写作品として上映。
  • フリーライター

    須永貴子

    非常に勉強にはなったが、多数のテーマやメッセージを一本のドラマに落とし込めていない。主人公の在宅医が平穏死に失敗した患者と成功した患者を、前者は写実主義の絵画のように、後者は人情もの+川柳普及映画のように描いていて、コントラスト以前にトーンがちぐはぐ。劇中で日本酒を「おいしい酒」ではなく「真面目な酒」と称賛する台詞があるが、この映画もまさにそんな仕上がり。宇崎竜童が演じる末期がん患者のキャラクターが、映画を突然スイングさせる魅力に溢れている。

  • 脚本家、プロデューサー、大阪芸術大学教授

    山田耕大

    人の死を扱っているのに、妙な言い方だがとても気持ちの良い映画である。在宅医という存在は聞いてはいても、よくは知らなかった。知って良かった。瀕死の患者が病院に運ばれると、全身管につながれ、不必要な苦痛を伴う延命を余儀なくさせられる。人の尊厳などまるでない。安楽死が認められない日本では、病院ではそうするしかないらしい。この若き在宅医は、患者それぞれの人生に見合った手作りの死を患者と一緒に創っていく。死は一つの作品なのだ、と思った。

  • 映画評論家

    吉田広明

    「けったいな町医者」の題材をドラマ化した作品だが、その本人ではなく、その後輩が主人公。在宅医療医ではあるが、マニュアル通りの診療によって患者を苦痛の末に死なせた彼が、先輩の仕事を見て学び、あるべき在宅医療の在り方を学んでいく構成。失敗例から成功例という変化がいささか楽天的とはいえ、点滴や腹水の考え方など具体的な医療の細部も説得的で(同じことはドキュメンタリーでも述べられているが、言葉のみと映像とではやはり説得力が違う)、脚本のこなれ具合が良い。

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