喜劇 愛妻物語の映画専門家レビュー一覧
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フリーライター
須永貴子
着地点からして夫婦のいい話に見えるけれど、人間の打算や狡猾さが台詞や表情から読み取れる。例えば、「俺だってがんばってるもん」という豪太の台詞。妻でなくても「どこがだよ!」とツッコミたくなるところだが、実際に彼はがんばっているのである。せっかく捕獲した働き者の妻に見捨てられないギリギリのラインで、どこまで怠惰な生活をするかという、生きるか死ぬかの戦いを。表裏一体の愚かさと愛しさから目をそらさずに笑いに昇華する、強烈な人間コメディ。
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脚本家、プロデューサー、大阪芸術大学教授
山田耕大
嗚呼、身につまされる!! これを観て、そう思う人はかなりの数に及ぶはず。妻の口撃は本当に容赦ない。傷口に塩を塗るどころか、傷口をさらに広げて砂でも詰められるが如きである。新藤兼人の「愛妻物語」からのなんたる隔たり! が、のべつ幕なしに夫を罵倒しまくる妻は、ダメな夫のために全てを投げ出している。水川のおばさん体型は役作りのために体を太らせたのだろう。顔もすっぴん。これが役者なのだ。「幸運を呼ぶ赤いパンツ」を決して脱がない妻は崇高にさえ見えてくる。
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映画評論家
吉田広明
売れない脚本家の夫と愛想をつかしかけている妻の、スケールの小さすぎる口喧嘩で映画の大半が占められているのだが、あまり飽きないのはロード・ムーヴィーという枠組みの採用が寄与している。俳優の存在感、夫婦の過去などの背景の開示で緩急をつける脚本の上手さもそれを補助した。情けなさ過ぎての号泣が、その情けなさゆえに笑いに変わる場面が白眉。ただ、ご無沙汰の妻といかに性交に持っていくか、その駆け引きのしつこさに少々食傷、夫の小ささを示す別のアイディアが欲しい。
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