サイダーのように言葉が湧き上がるの映画専門家レビュー一覧

サイダーのように言葉が湧き上がる

歌舞伎界の新星・八代目市川染五郎と「十二人の死にたい子どもたち」の杉咲花が声優を務める劇場オリジナルアニメ。コミュニケーションが苦手な少年チェリーと外見にコンプレックスを持つ少女スマイルは、ひとりの老人との出会いによって距離を縮めるが……。監督は、TVアニメ『クジラの子らは砂上に歌う』のイシグロキョウヘイ。
  • 映画評論家

    北川れい子

    あらゆる色のパステルカラーで彩色されたカラフルな画像に、ヘッドフォンを耳から離さない無口な俳句少年と、カワイイを連発するマスク少女。互いの泣きどころの視覚化ってことらしい。それはともかく、俳句という言葉による心情スケッチを字幕化しつつ、青春の定番要素をゴッソリ盛り込み、さらに思い出のレコードを探す老人のためにせっせと大奮闘、なんとまぁ良い子たち。夏祭りに花火という定番中の定番のクライマックスも、お約束事として据わりはいい。悪意ゼロのアニメ。

  • 編集者、ライター

    佐野亨

    鈴木英人か永井博をほうふつとさせる色使いと均質な描線。シティポップ隆盛の昨今を意識しての企画だが、さらに俳句というファクターがそこに加わる。かつて80年代に風景の均質化をポップに切り取る映画作家とみなされた森田芳光は、同時に地方都市の空洞化と日本的言語表現の変容の問題にこだわりつづけた。この作品は、シティポップの言語面でのアンリアルなリアリティが、こうしたいくつかのねじれと二重化の上に成立していることをみごとに描き出していて虚を突かれた。

  • 詩人、映画監督

    福間健二

    俳句を使ったアニメ。老人フジヤマの俳句は監修役でもある歌人黒瀬珂瀾の作。主人公チェリーの俳句は複数の高校生たちの作。まず、そのへんが微妙にユルイ。劣等感もつ者どうしのボーイミーツガールで、作画、演出、ともに古い手が連発される。なにかが割れそうだと心配させたら、ちゃんと割れるという具合だ。でも、チェリーも、彼がなかなか好きだと言えないスマイルも、憎めない。そして大事な歌がなんと大貫妙子の曲でその歌声が響く。イシグロ監督、俳句好きだったらうれしい。

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