ラストレター(2020)の映画専門家レビュー一覧

ラストレター(2020)

手紙の行き違いをきっかけに始まる二つの世代の恋愛と、それぞれの心の再生と成長を描くラブストーリー。岩井俊二が初めて出身地・宮城を舞台に物語を作り上げた。裕里は、亡くなった姉の代わりに出席した同窓会で、初恋の相手・鏡史郎と再会するが……。出演者には「マスカレード・ホテル」の松たか子、「ラプラスの魔女」の広瀬すず、「フォルトゥナの瞳」の神木隆之介、「風立ちぬ」の庵野秀明、「天気の子」の森七菜、「マチネの終わりに」の福山雅治など豪華キャストが集結。
  • 映画評論家

    川口敦子

    「アイリッシュマン」の、H・カイテルまでちゃんと居るスコセージ組同窓会ぶりにはやはり胸を突かれた。それがなれあいの腐臭を回避し得ているのは俳優たちの確かな演技と存在の力あってこそだろう。同様のことを岩井監督の新作に帰ってきてそれぞれに輝いている俳優たちを前に思った。その力を引き出す上で語りたいことを持つ一作の強味のことも思い監督の手になる原作がまず書かれたことの強さについて考えたいと思った。手紙、写真機、夏休み、水、重層的時のモチーフについても。

  • 編集者、ライター

    佐野亨

    岩井俊二の映画は、叙情などという表現ではおさまらない、人間の独善性についての考察であると言ってよい。恋愛感情とは独善性の暴走であり、ゆえに当事者にとっては際限を知らぬ甘美な陶酔である。しかも岩井作品においては、その陶酔はまたべつの陶酔に溺れる第三者によって鏡像認知的にお墨付きを与えられ、「完全なる幻想」として永久に美化されつづけるのだ。試写室のあちこちから漏れ聞こえてきた鼻水をすする音がその完成度を物語っている。万感をこめて「私は薦めない」。

  • 詩人、映画監督

    福間健二

    岩井作品、やはり驚かされる。理屈で追っても取り逃がしそうなマジックがあるのだ。たとえばひとつの嘘に対して、話が動いたあとで「ごめんなさい」「いや、わかっていた」と収めるところなど。ずるいと思わせないうちにきれいに逃げ切っている。映画だからこその語り方の魅惑。だとすれば簡単だが、画、編集、音、どれも技術的に高度というだけでなく、この世界のいまを立体的に感じとっている。故郷で撮影した。暗い部分への踏み込みもありながら、重くない。演技も、作品の表情も。

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