ナチ刑法175条の映画専門家レビュー一覧

ナチ刑法175条

1871年に制定され、1994年まで存在した同性愛を禁止するドイツの刑法175条により、ナチス・ドイツで迫害された同性愛者たちを追ったドキュメンタリー。なぜ国家によって同性愛は禁止されたのか。歴史に隠された一面を明らかし、人間の自由と尊厳を問いかける。監督は「ハーヴェイ・ミルク」のロブ・エプスタインと、同作のスタッフだったジェフリー・フリードマン、ナレーションを「アナザー・カントリー」のルパート・エヴェレットが担当。2001年山形国際ドキュメンタリー映画祭にて『刑法175条』のタイトルで上映された。
  • 翻訳者、映画批評

    篠儀直子

    20年以上前の傑作がデジタル・リマスターを機に劇場公開。出演してくれた証言者たちがいまでは全員鬼籍に入っていることを思うと、この作品の意義は一層大きくなる。彼らの人生には、当たり前だがひとつとして同じものはなく、事態を多面的に見せてくれると同時に、このほかにも膨大な数の人生が失われたことを思い知らされて愕然とする。ここで語られる事態が、自由と寛容の頂点というべきワイマール時代の直後に訪れたという恐ろしさ。「人々はすぐ無関心になる」という言葉の重さ。

  • 編集者/東北芸術工科大学教授

    菅付雅信

    ドイツで施行されていた同性愛を禁じる「刑法175条」を題材にしたドキュメンタリー。特にナチス支配下で男性同性愛者は激しく弾圧され、収容所に送られたという。そのわずかな生存者に迫る本作は、かなり高齢となったサバイバーの鮮烈な体験談を収める。ゲイ、ナチス、強制収容所と強い題材であるにもかかわらず、映画はあまり工夫のない淡白な出来。貴重な証言を世に伝えることが主眼であれば、映像よりもノンフィクション小説に仕上げたほうが良かったのでは。

  • 俳優、映画監督、プロデューサー

    杉野希妃

    ナチが同性愛者を迫害していたという事実をはじめて知った。壮絶な過去を持つ人間が数十年後にその体験を語ってほしいと言われても、そう簡単には語れないだろう。言葉をつまらせ涙を浮かべながら明かされる、彼らが受けた拷問や人体実験の数々。語りたい/語りたくない想いの狭間で引き裂かれる彼らの苦悩と、聞くことを躊躇する若い聞き手の葛藤。歴史を掘り返す双方の勇気が描かれていた。「人間はすぐに無関心になる」という劇中の言葉は真実だけれど、それに抗おうとする真摯な映画。

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