湖のランスロの映画専門家レビュー一覧

湖のランスロ

カンヌ国際映画祭国際批評家連盟賞に輝いたロベール・ブレッソンの傑作を製作から48年を経て日本初上映。王妃グニエーヴルとの不義の関係に苦悩するアルテュス王の円卓の騎士、ランスロ。それが騎士たちの団結に亀裂を生み、思わぬ事態を引き起こす……。出演はリュック・シモン、ローラ・デューク・コンドミナス。
  • 米文学・文化研究

    冨塚亮平

    忠義と愛の板挟みにあったランスロが、やがて否応なく巻き込まれていく運命の歯車。その容赦のなさは、劇伴を廃した本作全体を貫く、あまりに異様で機械的なリズムに常に/すでに暗示されている。馬の蹄や騎士たちの甲冑・槍が発する物音、そして彼らの声。それらが形作るリズムに導かれた「耳によるモンタージュ」が、騎士や馬の身体の一部、鞍の色彩といった細部に焦点を当てる画面設計とも呼応する形で現出させた、他に類を見ない音響空間の真価は、劇場でこそ体感できるだろう。

  • 日本未公開映画上映・配給団体Gucchi's Free School主宰

    降矢聡

    ロベール・ブレッソンを知っている人も知らない人も、冒頭の戦いの場面から呆気にとられること請け合いの異形の映画。心理と実際に映し出されているものの乖離が凄まじく、登場人物の強硬な物質感と内面の不透明さは、まさにさまよう鎧のよう。悲しいときは静かな音楽とともに泣き顔を、嬉しい時には明るい画面と一緒に笑顔を映し出すといった、感情と画面が答え合わせのように紡がれる映画とは無縁の、自由で謎に満ちた本作は今もっとも必要とされている映画の一本だろう。

  • 文筆業

    八幡橙

    後世に名を遺す名匠の50年近く前の作品に自分なんぞが星を付けても詮無いが、冒頭いきなり三隅研次「子連れ狼」シリーズを思わせる流血シーンで幕を開けるこの異色作、やはり日本未公開だった環境汚染と若者の苦悩を描く「たぶん悪魔が」と共に、今劇場で観る価値は大いにあり(ゆえに本来の意味で★三つに)。ノンプロ演者(ブレッソン曰く“モデル”)の感情を排した棒読み演技が象徴する「シネマトグラフ」に、現在の濱口竜介作品へと受け継がれてゆく潮流を汲み取れる点も興味深い。

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