たぶん悪魔がの映画専門家レビュー一覧

たぶん悪魔が

ベルリン国際映画祭銀熊賞(審査員特別賞)に輝いたロベール・ブレッソンの傑作を製作から45年を経て日本初上映。自殺願望に取り憑かれた裕福な青年シャルルは、友人や彼を慕う女性たちとの交流を重ねながらも、死への誘惑を絶ち切ることができず……。出演はアントワーヌ・モニエ、ティナ・イリサリ、アンリ・ド・モーブラン、レティシア・カルカノ。
  • 映画評論家

    上島春彦

    私はブレッソン映画を理解しない。評価は読者に任せたい。半世紀近い昔のフランスの姿が鮮明に蘇るのは見応えあり。しかしある時期以降の彼の映画は「台詞言わされてる感」が強く、辛い。美しい若者がどっさり出てくるので目の保養にはなろう。主人公は退潮期の学生運動にも信仰にも絶望しているが、義には篤い。それが生きづらさを加速させるものの、彼は当てどなく街路を彷徨ったり数式をノートに書き留めている時の方が台詞を語る時よりも自由に見える。そのアンバランスが魅力。

  • 映画執筆家

    児玉美月

    映画はまずひとりの青年の自殺/他殺の新聞記事を映し出し、そこから遡及的にその地点までを描いていく。死に取り憑かれた青年の死は、個人の死と集団の死、身体の死と精神の死、現実の死と比喩としての死といった死の二分法を解体せずそのまま抱え込んでいる。実際の公害や環境破壊の報道映像が差し込まれながら、世界が壊れていくのに耐えかねる青春期特有の絶望感と時代的退廃が刻まれた1970年代のパリを舞台にした映画として、ベルトルッチの「ドリーマーズ」と双璧を成す。

  • 映画監督

    宮崎大祐

    フレームの隅々まではっきりと見えるデジタル・リマスター版でブレッソンの演出の厳密さはいっそう際立ってくる。水辺のシーンなどこの世のものとは思えない。しかし難儀な作品だ。神も悪魔もいないと言いながら、鋭いパイプオルガンの音を聞くとただちに大聖堂を見上げてしまうわれわれがいる。一方で、世界のどこかで撲殺されていくアザラシのこどもがいる。この世を覆う暗黒の力に気づきながらも、聖堂の賽銭箱から転がり出てくる金属片を今日も拾い集めるわれわれとは。

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