映画専門家レビュー一覧

  • 再会の夏

    映画評論家

    城定秀夫

    フランス版忠犬物語なんて触れ込みとはいえ単なる動物感動映画などではなく、かなりストレートな反戦メッセージと普遍的な人間愛が流麗な物語運びの中で描かれており、VFXに頼らないガチンコ戦闘シーンをはじめとしたシンプルかつ力強い画作りや高い技術に裏打ちされた音響設計に加え、役者陣のみならず犬からも腰が据わった見事な芝居を引き出してしまう熟練の極みに達した職人技が堪能できる映画で、ドラマチックであることから逃げずに品格を保つ姿勢もベテラン監督ならでは。

  • パリの恋人たち

    映画評論家

    小野寺系

    ヌーヴェルヴァーグからの連続性を保つ、ごきげんなほどクラシカルな筆致で、恋愛模様や感情の揺れる機微を、あえて小さなスケールにとどまって描くスタイルには共感するし、そこに様々な可能性を感じるのは確かだ。しかし、いま社会から切り離されたように見える抽象的な人間描写で恋の駆け引きを表現することにどれだけの意義があったのかには疑問。ケーキの上にのった生クリームだけをすくいとってなめたような味がする。とはいえ、これが好きな観客もいるだろう。

  • パリの恋人たち

    映画評論家

    きさらぎ尚

    美男美女を揃えた配役に興味をそそられて見たのだが、かすかにヌーヴェルヴァーグの雰囲気が漂い、得した気分に。マリアンヌとエヴの二人の女性に映るアベルのキャラの違いが面白い。彼が主体性に欠ける男として、特にエヴに振り回されるのは、原題にあるように、根が誠実だからか。いずれにせよ、そのいささか物足りない性格が、いまどきの恋愛模様を反映しているかに思える。腹八分目のたとえのとおり、そこそこ感が心地よい。邦題は、内容が伝わるように、一考の余地あり、かも。

  • パリの恋人たち

    映画評論家

    城定秀夫

    父ちゃんの映画「救いの接吻」で三輪車をこぐ姿が可愛かったルイ坊やがこんなに大きくなって監督・主演でこんなにもステキな映画を撮ったことにまず感動したし、各々の心情をモノローグで語らせる、下手すれば興ざめ甚だしい手法をも洒脱に使いこなし、現実と寓話のバランスも見事に、この物語を75分の短尺で語り切ってしまうセンスの良さには舌を巻くばかりで、なにより父フィリップ・ガレルの「お話があんまり面白くない」という弱点から逃れ、しっかり面白いのが素晴らしい。

  • 家族を想うとき

    映画評論家

    ヴィヴィアン佐藤

    老巨匠に引退宣言を撤回させたテーマは、まさに我々が毎日ネットニュースで目にするプラットフォームビジネスの裏側だ。舞台はイギリス、ニューカッスルだが、世界中どこにでも見られる光景だ。「ネット社会」は無駄を省き効率を優先する。一家族の「家を持つ」という定住の土地を求めるありふれた夢。家族の会話や触れ合い、共有する時間と空間を持ちたいとする目的は、グローバル経済とAIという非場所のシステムに支配され手段であったはずの労働環境によって粉砕されていく。

  • 家族を想うとき

    映画評論家

    藤木TDC

    老巨匠による良心作だが、本作が描く底辺労働者の生活過酷化は私のようなフリーランスには切実な明日で、そのリアルを延々見るのは苦しかった。だから同じ気持ちになろう人々に高い入場料まで払って本作を見よとは勧めにくい。見ながら夢想した。70〜80年代を生きた内田裕也や本間優二、デ・ニーロのトラヴィスは同じ境遇をどう突破したろうと。本作に不足なものがそこにある。映画は野蛮に現実を破壊しなければ。我々は飼い犬ではない。行儀良くしても餌にはありつけない。

  • 家族を想うとき

    映画評論家

    真魚八重子

    過酷な仕事に就く共働き夫婦の、それぞれの日常描写の説得力。ケン・ローチは着実に現実味のあるトラブルを積み重ね、追いつめられていく大人の心身の疲労を見せつける。何度も岐路に立たされ、そのどちらの道に進んでもダメージが伴う脚本の綿密さ。子どもがたとえ浅はかでも思慮はあり、親の思惑とは折り合わない問題行為を起こすのも、家族とは人間が寄り合う集合体である軋みゆえだ。決着をつけないラストのドライブが、現代的なワーキングプア問題の破綻を予言する。

  • シュヴァルの理想宮 ある郵便配達員の夢

    映画評論家

    ヴィヴィアン佐藤

    シュヴァルといえば澁澤龍彦はじめ多くが論じているが、岡谷公二さんの著作が最も詳しい。いずれにせよ奇人変人史上の最上位人物。そんな人間を妻と家族とオートリーヴの自然をこよなく愛し、それを美男美女の役者を起用し美しすぎる感動作に仕上げてしまったことに驚愕。SNSやメールのない時代、雑誌や新聞、手紙から得たイメージで「世界」を丸ごと再現してしまった理想宮。そこに今や「セカイ」しか再現できない私たちの哀しみをタヴェルニエ監督による「シュヴァル」に見た。

  • シュヴァルの理想宮 ある郵便配達員の夢

    映画評論家

    藤木TDC

    世界から観光客を集めるシュヴァル理想宮。その作り手と妻のつつましき人生や夫婦愛を絵画のような映像、静かな音楽とともに淡々と描く。村里の郵便配達員の質素な日常と悲嘆が積み上げた独創芸術の宮殿という奇蹟。豊かな人生の秋を夢見させるのも間違いなく映画の使命だから、すでに安定を得た人々に本作は至福の時間かもしれない。しかし日本に住む現役世代の多くにはこんな理想の晩年はやってこようはずもない。煎餅布団の中でわびしい夢を見るしかない人間には無用の物語だ。

  • シュヴァルの理想宮 ある郵便配達員の夢

    映画評論家

    真魚八重子

    郵便夫の頑丈さと老いの具合を、滑らかに演じきったJ・ガンブランが見事。シュヴァルの奇人ぶりは否応なく現れつつ、構成は家族に焦点を絞り、愛された父親としての幸福を伴う横顔が浮かび上がる。「フィツカラルド」的な狂気に振り切らず、建造への妄執は美しい風景ショットとの対比で柔和に描かれ、家族の喪失という決定的な不運が最大の影を作り上げる。宮殿の建設で飾り細工より、土台作りに関する会話や描写が圧倒的に多いのも、現実味を直視した真摯さの表れだ。

  • ある女優の不在

    映画評論家

    畑中佳樹

    自殺動画を送信してきた少女の消息をたずねて、女優と監督(パナヒ監督自身が出演)が乗り組んでイラン奥地の閉鎖的な村へと分けいっていく一台の車。そのフロントグラスが物語を追う視点の定位置で、そこから前方を撮り、また車中の二人を撮る。自由な女への敵意をたぎらせた村へ、車を置いて人物がさまよい出ると「早く戻って!」と思ってしまう。車という撮影装置が軸となって不断に映画を生み出していくのは、運転手即ち監督だった前作「人生タクシー」と同じ趣向。

  • ある女優の不在

    映画評論家

    石村加奈

    女優の未来を家族の裏切りで絶たれ、家出した少女。少女の命懸けの連絡に戸惑いながらも、撮影を中断して少女の村へ駆けつける人気女優ジャファリ。訪ねた村でジャファリは、隠遁生活を送る往年のスター女優と出会う。曲がりくねった一本道をたどった先で顔を合わせた、本来の居場所に「不在」の3人の女(巧い邦題!)の様子を、映画は意図的に見せない。対するジャファリの帰途を阻む絶倫雄牛や割札の伝統等、長々語られるバカげた男性的エピソードとのギャップ! シュールだ。

  • ある女優の不在

    映画評論家

    佐々木誠

    パナヒは、不屈の監督だ。この10年、イラン政府から映画制作を禁じられているが「これは映画ではない」と嘯き、虚実の壁、政府の圧力を軽々と超えた作品を発表し続けている。そのトリッキーなタフさたるや。本作でも“本人”として出演、「自撮りしながら首吊り自殺した女優志望の少女の映像」の真偽を確かめるため、少女に名指しされた女優ジャファリ(本人)と共に虚実皮膜な旅に出て、イランの映画史、現在を浮き彫りにし、さらには未来にまで言及する。リスペクトしかない。

  • ルパン三世 THE FIRST

    映画評論家

    須永貴子

    大泥棒が世界を股にかける冒険活劇アニメーションと3DCGの相性が悪い訳がない。しかし、お宝の秘密があまりにも荒唐無稽で広げた風呂敷のたたみ方が雑なのは、“スケール感”という呪いにかかったからか。逆説的に、本シリーズの魅力はキャラクター間のベタなやりとりなのだなと再確認。そうなると気になるのは次元の声。彼以外の主要キャラの声優が次世代に替わっているため、次元の外見と80代の声優による声の違和感が際立ち、最後まで消えることがなかった。

  • ルパン三世 THE FIRST

    映画評論家

    山田耕大

    天邪鬼な僕は、みんなが観ているものには目を背け、ルパン三世も子供がテレビで観ているのをチラ見した程度。今回初めて観るに等しい。ただ一言、面白かった! テンポよく、一瞬も飽きさせない。ご都合な展開も却って心地良い。90分ちょいの長さも的確。売れ筋監督に、「映画が長いのが何が悪いっ!」と嚙みつかれたことがある。やっと終わったと思ったら、まだ続きがあるラストシーンが作れないボンクラ映画はもう不要。映画は客に観せるものであって、見せびらかすものではない。

  • ルパン三世 THE FIRST

    映画評論家

    吉田広明

    目玉である3DCGについては、キャラの造形も違和感はないし(ただ、ルパンは以後ずっとこれでいいとは全く思わないが)、モノの質感も確か、方向性の自由度を十分生かしたアクション場面など、まずまずの成功と言えるのではないか。物語に関しては、一般意見を聴取してフィードバックしたというが、その分どこかで見たような既視感漂うものに落ち着いてしまったように思う(特に宮崎の「カリオストロ」。少女、古代遺跡、権力意志)。せっかくの新機軸、もっと冒険してもよかった。

  • ラスト・クリスマス(2019)

    映画評論家

    畑中佳樹

    オーディションで伴奏無しで歌わされ、宿無…

  • ラスト・クリスマス(2019)

    映画評論家

    石村加奈

    冒頭の、旧ユーゴスラビアの教会で高らかに歌っていた少女が、ラストでは、イギリス・ロンドンのシェルターで歌う。どこにいても、センターでスポットライトを浴びるべき宿命の、明るいヒロイン・ケイトを、E・クラークがチャーミングに演じる(バスのシーンも素敵だ)。ケイトの母親を演じたE・トンプソン(原案、脚本も務める)や、ケイトが勤めるクリスマスショップのオーナー役にM・ヨーと、奇跡的なキャスティングもたのしい。そして懐かしすぎるG・マイケルの音楽に涙!

  • ラスト・クリスマス(2019)

    映画評論家

    佐々木誠

    全篇ワム!とジョージ・マイケルの曲に彩られたゴキゲンな(!)ラブコメ作品。主人公の自己中女ケイトが謎の男性と出会い、己を省みて変化していく、という定番の展開で、演じるのはエミリア・クラーク。『ゲーム・オブ・スローンズ』などカリスマ性のある役の印象が強いので、性悪なビッチでの登場は新鮮。後半、ケイトが旧ユーゴからの移民という設定やLGBTQなど社会問題をバランス良く組み込むことで、80年代テイストでありながら現代的なラブコメ、という印象になっている。

  • バオバオ フツウの家族

    映画評論家

    ヴィヴィアン佐藤

    レズビアンとゲイのふたつのカップルのユーモア溢れる妊活物語で、一見編集が複雑で時系列が解りにくい。しかし、物語は終わりからの視線で、生まれてくる赤子が周囲の大人から事ある毎に聞かされた断片を繋ぎとめ再構成しているように思えてならない。4人が主人公ではなく、語り部としての赤子の存在。特別なLGBTの人々の物語としてだけで捉えるのではなく、両親や祖父母の語られなかった埋もれた歴史が必ずあるのだ。小さくても重要な歴史を救済し語り直す物語である。

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