映画専門家レビュー一覧

  • きみの瞳(め)が問いかけている

    詩人、映画監督

    福間健二

    前半、かなり引き込まれた。つらい経験をもつ二人が出会い、心を通じさせていく。いまの日本だからこうなるというものにできれば、どんなによかったか。チャップリンの名作をヒントにした韓国映画のリメイク。キリスト教的な善悪の枠組みを土台にした、これでもかという大メロドラマになり、地面が見えなくなった。三木監督たち、人にも社会にもなにかを「問いかける」気はなさそうだ。天使性ありの吉高由里子に、静と動の振幅に地力を感じさせる横浜流星。すてがたい魅力はある。

  • 瞽女 GOZE

    映画評論家

    北川れい子

    水上勉原作の「はなれ瞽女おりん」で“瞽女”と出会ったこちらとしては、実在した瞽女さんをモデルにしたという本作、彼女の一代記に終わっているのがものたりない。前半は、盲目の幼い娘が自立できるようにと心を鬼にして瞽女修行に出す母親の心情が、後半は親方と巡業の旅に出る若い主人公のエピソードになるが、格別に時代や因習が絡んでいるわけでもない。野や雪山を往く瞽女たちの姿を絵葉書化した映像も逆に安っぽい。子役・川北のんの『おしん』もどきと成人後の吉本実憂は健闘賞。

  • 瞽女 GOZE

    編集者、ライター

    佐野亨

    小林ハルの幼少時代を演じた川北のん、成長してからの吉本実憂、いずれもみごと。表情にも所作にも嘘がなく、この時代を生きた女性のたたずまいをいまに伝える。ほかにも中島ひろ子、宮下順子、草村礼子、左時枝、渡辺美佐子、さらには語り部の奈良岡朋子まで、女性陣の自然な存在感と口跡に感嘆した。豊かな黒の使い分けで時代の色を再現した撮影、峠越えのシーンはじめロケーションも圧巻だが、その画にここぞとばかり「感動的」な音楽をかぶせるのはいただけない。

  • 瞽女 GOZE

    詩人、映画監督

    福間健二

    最後の最後に小林ハルさん、九〇歳のときの歌声が流れる。天まで響くとは、これを言うのだと思う。地を這うようにして修練を積み重ねた末に身につけたその芸と人柄のよさ。彼女がどう育ち、どう努力してそういう人となったのか。瀧澤監督を本作へと突き動かしたものはよくわかる。瞽女になる。その大変さとそれだけでは片付けられない側面。ハルさんの歌がそうであるような、突き抜けた表現に至らないとはいえ、幼い時期の川北のん、青春期以降の吉本実憂、ともに共感を呼ぶ演技だ。

  • 空に住む

    フリーライター

    須永貴子

    喪失感を抱えた主人公が、惑いと迷いを経て自分を立て直す、いわゆる再生もの。本作の主人公は、両親を事故で亡くし、叔父夫婦の計らいで高級タワーマンションで新生活をスタートさせる、文芸編集者。高層階の窓からの風景と、職場の古民家とのコントラストが、彼女の心の揺れをヴィジュアルで表現している。同じマンションに暮らすスター俳優とのメロドラマ仕立てのロマンスや、赤ワインだけを飲み室内でも靴を履いているタワマン族の描写から滲む監督の意思にニヤリとしてしまう。

  • 空に住む

    脚本家、プロデューサー

    山田耕大

    高層マンションの39楷に住むというのは、この映画を観ている限り、住み心地がいいとは思えない。出版社勤めの直実が住むこの部屋を時々訪れる人気俳優は、「あなたの夢は?」と直実に聞かれて言う、「地に足をつけること」。誰も地に足をつけていないように見える。おしゃれで知的で空虚な会話。悩みや苦しみ、悲しみにもかけられたベール。観ているうちに鬱々とした気持ちになる。誰かが死ぬんではないかと思っていたら、死んだのは飼い猫だった。この映画をどう楽しんだらいいんだろう。

  • 空に住む

    映画評論家

    吉田広明

    人生は長い、だから人と人の関係は仮初の積りでも地獄になる事もある。その中で嘘をつくことも、相手が死んでも泣けないこともあるのだが、それでいい。綺麗ごとでは済まない人生を、その穢れのままに肯定するという話を、小奇麗な高層マンションで描くのは皮肉なのか、懐が深いのか。自分ではどうしようもない事態にいかに立ち向かうか、というより、いかにやり過ごすかという話で、昔なら意気を欠く映画と思ったかもしれないが、これも生き延びる術と思うのはこちらも年を取ったのか。

  • ファンファーレが鳴り響く

    映画評論家

    北川れい子

    おやおや、腹いせで青春殺人道中記ですか。森田作品は短篇も“ゆうばり”でグランプリ他を受賞したという前作も未見なので、闘病中の自分の欲と想念を描いたという本作のみのカンソーだが、いじめられっ子が血に魅せられた少女に引きずられての殺しの道行き、ファンファーレどころか雑音さえ響かない。殺しのシーンの演出ばかりに力を入れているのもただ味けなく稚拙。監督は「俺たちに明日はない」「冷たい熱帯魚」に思い入れがあるようだが、場面はあってもドラマは皆無。

  • ファンファーレが鳴り響く

    編集者、ライター

    佐野亨

    笠松将と祷キララ、いい顔をしている。そのたたずまいを生かせば、「馬鹿な大人」に対する二人の逃避行にニューシネマ的なリリカルさが宿りそうだが、なにやら紋切り型の破壊衝動とダイアローグの貧しさがむしろ役者の個性を殺いでいる。残酷描写もただ気前よくやってますというだけで生理的な嫌悪感に欠け、それではこの物語を語る意味がないのでは。たとえば90年代における松村克弥の「オールナイトロング」、あのヒリヒリとした時代の切迫感のその先を見せてほしい。

  • ファンファーレが鳴り響く

    詩人、映画監督

    福間健二

    学校にはイジメ集団と勇気のない教師、家には思慮なく叱る父とやさしいだけの母。働かない叔父がいて味方してくれるが、頼りにはならない。そんな環境で追いつめられる吃音の高校生を笠松将が演じる。だれにともなく「死ね!」と彼が叫ぶのを聞きのがさず、悪夢的な殺戮の連続へと彼を引き込む同級生の女子に祷キララ。ボニーとクライドになりそこなう二人。森田監督、暴走とその後も描いて何を確かめたのだろう。画も演技も上滑り。「バカな大人」に立ちむかうにはナイフが小さい。

  • アイヌモシリ

    フリーライター

    須永貴子

    アイヌの人々が現在向き合っているものを(おそらく丹念な取材で)拾い集め、アイヌの少年の成長物語として再構築。森や湖で、思春期とアイデンティティーというダブルのゆらぎに惑う少年を捉えた映像美に目をみはるものがある。民謡や舞踊、民芸品や祭事などを、物語の装飾ではなく必要なものとして扱っており、アイヌの文化や人々だけでなく、映画への敬意が滲む。檻に入れられた子熊の側から少年にカメラを向けたショットの意図的な違和感を、終盤で回収する手腕も巧み。

  • アイヌモシリ

    脚本家、プロデューサー

    山田耕大

    アイヌの古来からの習俗や儀式がしっかり描かれていて、とても興味をそそられた。「イヨマンテ」と言えば、古関裕而が作曲した〈イヨマンテの夜〉を思い浮かべてしまうが、熊を殺してその魂を神へ送り出すアイヌの大切なこの儀式が、野蛮だといって一時禁止されたことを初めて知った。少年は亡父の友人が飼う子熊を飼育するように言われるが、それがやがてイヨマンテでの生贄になると思って、逃がそうとする。そこに葛藤・劇があるが、あまりしっくり来てはなかった。

  • アイヌモシリ

    映画評論家

    吉田広明

    イヨマンテは観光客を排して、アイヌのアイデンティティを再確認するため自分たちのためだけに行われ、閉ざされている。固有性を維持するためには閉ざすという選択は、開かれることを礼賛するグローバリズムへの批判ともなりうる。観光地化に疑問を持ちつつ、イヨマンテにも小熊可愛さから踏み切れない主人公の少年という視点を設け、その成長物語とすることで緩和されているが、本来一層激しい社会葛藤劇(例えばクジラ・イルカ漁の是非を思えばそれが想像できる)もありえた。

  • 靴ひも

    映画評論、アーティスト

    ヴィヴィアン佐藤

    市井の人々の社会問題を正面から真摯に描いたケン・ローチ的な視線。どうにもならない人間の運命を映画的なロマンスやミラクル描写を極力避け、現実的な容赦ない展開をさせた。一見無神論的で運命論的な世界観ではある。嘆願する信仰の対象としての神の存在はなく、結果的に神の存在を匂わせ、人間の尊厳を描いてみせた。現在どこの先進国でも見られる核家族化や孤独の光景は、誰も語りたがらない題材である。しかしこの映画の存在理由は、まさにそこにあるのかもしれない。

  • 靴ひも

    フリーライター

    藤木TDC

    障がい者が不慮の事情で新生活に臨み、疎んでいた共棲相手と打ちとけ互いに成長してゆく物語の人権啓発や情操教育面の意義はもちろん解るが、新作映画にはステレオタイプの刷新という課題も求められる。その面で本作の主人公は適度に下品な大人の感性をもつキャラに造形され新鮮で共感しやすく、イスラエル映画的な黒い笑いの配合も好ましいセンスだ。とはいえ中盤以降、優しい人々に囲まれ感動の結末に突き進む一本調子は定型から脱却しておらず、俳優の演技が良いだけに歯がゆい。

  • 靴ひも

    映画評論家

    真魚八重子

    実話を基にした中に異様な展開をみせる作品がある。それは事実だからしょうがないという確固たる柱があるから受容できるが、本作は恐らく創作の部分がありきたりで甘いので、主となる物語の論理性のなさがただの破綻や落ち着きの悪さに見える。障害者の日常描写のリアリズムと、彼らの私生活の充実にまつわる夢想が交じり合いつつ、現実と理想が互いを殺し合ってノイズにしてしまう作劇や演出が気になる。ロマンスの始まりがとって付けたようでもうひとつ考慮がほしい。

  • みをつくし料理帖

    映画評論家

    北川れい子

    友人から回ってきた原作を何冊か読み、NHKのドラマシリーズも観ているこちらとしては、キャスティング(昔の名前で出ています的な俳優さんがゾロゾロ)も、妙に間延びした春樹監督の演出も、かなり鮮度不足で、劇中の料理にばかり気がいったり。そういえば角川映画が旋風を巻き起こしはじめていた頃、私は公務員をしていたが、同僚曰く、“角川博”が映画を作ってんのね……。テナことを思い出したのも、ゆるい演出を持て余したからで、美術セットがチマチマしているのも残念。

  • みをつくし料理帖

    編集者、ライター

    佐野亨

    おどかしの達人である角川春樹が、「最後の監督作」と銘打って拵えた映画は、衒いの一切ない人情劇。およそ映画とはこれくらいでよい、という肩の力の抜き方、変哲はないが着実な画作り。いずれもつつましさを是とする物語に合っている。淡々としたなかにあって、激情への流れを違和感なく見せる松本穂香と古きよき棒読み演技をあえて再現した窪塚洋介、巧い。一つ二つエピソードを刈り込み、もう30分短くしても……と思ったが、それもまた「最後」の思い入れゆえと許容したい。

  • みをつくし料理帖

    詩人、映画監督

    福間健二

    角川春樹らしい派手さは、味つけを濃くしすぎない程度にいちおうあるが、本当においしい料理を出しているだろうか。娯楽映画で時代劇ならやってもらいたい「悪との対決」には、ほとんど興味がなさそうだ。そして明るい照明の江戸時代、人はもう慣れっこになったのだろう。石坂浩二と藤井隆、マンガ的で笑わせるが、「影」を作ってはくれない。女性が中心、ということくらいしか現在性が感じられない。思いあう二人。なんとかそれになった松本穂香と奈緒にお疲れさまと言いたい。

  • スパイの妻 劇場版

    フリーライター

    須永貴子

    「一九四〇年に生きる人物を、映画好きというキャラ設定を生かしてか、蒼井優は当時の映画女優の芝居へのアプローチを用いて演じる。現代の言語感覚では不自然な言い回しの台詞を、やや高音で小気味よい早口で放ち続けることで、あの時代の人物としてスクリーンに存在する。とりわけ「おみごとー!」と叫んで失神する芝居は、構図とも相まって間違いなくこの映画のピークとなった。蒼井の新たな代表作は、ミステリーとしても反戦映画としても格調高い娯楽作に仕上がっている。

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映画専門家レビュー

今日は映画何の日?

NEW今日誕生日の映画人 11/27

ジャリール・ホワイト(1976)

キャメロット(1998)

英国で語り継がれてきた『アーサー王伝説』を、ひとりの少女を主人公に再現したドラマティック・アニメーション。ベラ・チャップマン著『The King's Damosel』をもとに、ワーナー・ブラザース・フィーチャー・アニメーションが製作する初の劇場用長編アニメ映画。原案はTVでも活躍するデイヴィッド・サイドラーとジャクリーン・フェザー。製作は「顔のない天使」のダリサ・クーパー・コーエン。音楽は「ハムレット」のパトリック・ドイルで、過去にグラミー賞を14回獲得しているデイヴィッド・フォスターが楽曲を提供。声の出演は「ジャックナイフ」のジェサリン・ギルシグ、「ツイスター」のケーリー・エルウェス、「フィフス・エレメント」のゲイリー・オールドマン、「トゥモロー・ネバー・ダイ」のピアース・ブロスナンほか。また、ケーリーの歌唱部分は「ザ・コミットメンツ」「エビータ」に出演したアンドレア・コーが、ギャレットの歌唱部分は数多くのプラチナ・ディスクを持つカントリー・ミュージックの大スター、ブライアン・ホワイトが担当した。
キャスリン・ビグロー(1951)

デトロイト

「ゼロ・ダーク・サーティ」のキャスリン・ビグローが、1967年暴動発生時のデトロイトで実際に起きた事件を映画化。暴動発生から2日目の夜、銃声の通報があったモーテルに警察が乗り込む。何人かの警官が捜査手順を無視し、宿泊客に不当な尋問を始める。出演は、「スター・ウォーズ 最後のジェダイ」のジョン・ボイエガ、「レヴェナント 蘇えりし者」のウィル・ポールター、「トランスフォーマー ロストエイジ」のジャック・レイナー、「シビル・ウォー キャプテン・アメリカ」のアンソニー・マッキー。

カルテル・ランド

「ハート・ロッカー」の監督キャスリン・ビグローが製作総指揮を執ったドキュメンタリー。麻薬カルテルが蔓延るメキシコで、一人の外科医が市民による自警団を結成する。彼らはギャングたちを追い詰めていくが、やがて組織は思わぬ方向へ暴走する。2015年サンダンス映画祭ドキュメンタリー部門最優秀撮影賞・最優秀監督賞W受賞。第88回アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞ノミネート。

NEW今日命日の映画人 11/27

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