映画専門家レビュー一覧

  • エスケープ・ルーム(2019)

    映画評論家

    きさらぎ尚

    出だしは暗号を解き明かし、鍵を探して脱出を試みるゲーム攻略の頭脳派ムービーだが、第2、第3と部屋を移るにしたがい、ビジュアルと体力で見せるサバイバル・アクションに。ゲーム映画にビジュアルの仕掛けは必須とは承知しているが、最後まで体力勝負だったのは、いささかストレート過ぎてスリル感に欠け、食い足りない。それにつけても感謝祭の休暇をこのゲームに参加して過ごさなくても。こう思うと身も蓋もないが、この種の頭の中で考えた仕掛けで押しまくる映画は苦手なので。

  • エスケープ・ルーム(2019)

    映画評論家

    城定秀夫

    冒頭の量子力学の講義に高度な知的パズル映画の幕開けを期待してしまうと、その後のスマホアプリレベルのゲーム内容にズッコケてしまうのだが、アクションに重きを置いたテキパキした演出と分かりやすい展開にはこの手の映画に付き纏いがちな小難しい哲学は内包されていない上、バッチリ真相が分かる無邪気なオチや、大衆向けに抑制された残酷描写などもポップコーンムービーとしては間違っておらず、盛りだくさんなツッコミどころもデート後の映画談議に花を添えるゴキゲン要素だ。

  • ラスト・ディール 美術商と名前を失くした肖像

    映画評論家

    小野寺系

    フィンランドの著名監督クラウス・ハロ、主演のベテラン俳優ヘイッキ・ノウシアイネン、ともに堅実な仕事が光る。市井の人が金策に奔走する作品は、面白く味があることが多いが、本作も例外ではない。端正な撮影で落ち着いた色彩の画面が好ましく、絵画の奥深さを孫に伝えようと美術館にやってくる場面や、人生最後の賭けのために、オークションで大勝負する場面が胸に迫る。脚本家が美術に理解があるところも評価できるが、あまりに型どおりに進みすぎるところは難点。

  • ラスト・ディール 美術商と名前を失くした肖像

    映画評論家

    きさらぎ尚

    絵画など、とりわけアート作品に魅せられた人間の心の内は、主人公の娘がそうであるように、周囲の凡人には理解しにくいところがある。この映画はこの点、つまり運命的に出会った絵画に人生をかけた画商と、家族の問題とをドラマにして、上手に決着させるところが好ましい。加えて、問題の肖像画(イコン)に画家の署名がない理由も知ることができる(恥ずかしながらこの映画を見るまで知らなかった)。つまるところ監督のクラウス・ハロは芸術と娯楽を融合させる手腕にたけている。

  • ラスト・ディール 美術商と名前を失くした肖像

    映画評論家

    城定秀夫

    頑固ジジイと生意気ボウズに芽生える友情には萌えるし、回転椅子を使ったさり気ない死の表現をはじめとした細かい演出にも感心させられたのだが、一番の盛り上がりを期待したオークションシーンが中盤で思いのほかあっさり処理されてしまう物語構成には首を傾げてしまうし、以降続く金策に奔走したりの地味で生臭い展開には、金儲けより仕事人としての矜持を貫かんとしている主人公に寄り添うことを放棄しているどころか、むしろマイナス方向に牽引しているような気まずさを感じた。

  • ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ

    映画評論家

    小野寺系

    話題の新鋭ビー・ガン監督による奇想の一作。とくに3Dワン・シークエンスショットなる試みは、いかにも虚仮威し風に思えるが、シャガールの絵画に見られる生身での空中飛行を主観ショットで描く、狂気じみた発想と異様な文学性が、そこにおそらくあるはずもない必然性を感じさせて、手品を見せられているよう。奇抜な場面が続くなかで、少年との卓球勝負という、オアシスのような笑いどころも用意される。この才能を、このまま野放しにした方がいいのかどうなのか、謎だ。

  • ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ

    映画評論家

    きさらぎ尚

    彷徨い交わるような現実と記憶と夢。これを独自のスタイルで映像化したビー・ガンという監督・脚本家を、相当ユニークな映像感覚の持ち主とみた。分けても後半部分の約60分をワンシークエンスショットで撮影したと聞いて見たが、カメラを回したカメラマンの大変さは想像を超える。おまけに画面がダークなことも手伝い、眼光紙背ならぬ、眼光「画」背の気合いでスクリーンを凝視。結果、B・D・パルマやW・カーウァイらを思い出すが、その誰とも似ていない煥発する才気を感じた。

  • ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ

    映画評論家

    城定秀夫

    前半のノワール調の演出はすこぶるキマっていて、惚れ惚れスクリーンを眺めていたら、なんだかストーリーの方はあまり理解できていない状態のまま噂の60分ワンカットパートに突入しており、そこからはトリップ状態に陥って気が付けばエンドロール。退屈はしなかったのだが、頭に残った物語を反芻しようにも摑み所がなく、いうなれば夢やイリュージョンを見ている感覚の映像体験で、映画として面白いのかどうかまでもが判然としない。そもそも映画の面白さとは一体何なのでしょう?

  • PMC ザ・バンカー

    映画評論家

    ヴィヴィアン佐藤

    しかし、よくもこのような設定を思いつくなと感心。サバゲーとRPGを合体させたような世界。迷宮のようなダンジョンのなかを地図やヴァーチャルで展開し、医療や武器の使い方などすべて当事者ではない人間がその攻略法を伝授していく。そして次から次へと起こる災難。結局はゲーム感覚なので「攻略」という自身の眼前の諸問題と戦う。脚本はもはやどうでもよく、もはやゲームなので演出やカメラなどリアルかどうか、どういったトラップが待っているかということだけが問題。

  • PMC ザ・バンカー

    映画評論家

    藤木TDC

    北朝鮮最高指導者を救出(視点によっては拉致)するプロットはネットフリックス配信の韓国映画「鋼鉄の雨」にもあったが、本作はよりアクチュアルな政治状況を下敷きにしている。序盤のサバイバルゲームPOV風から中盤には医療サスペンスへ展開、終盤の驚愕映像まで猛スピードでアクションが驀進する力作だ。撮影の実験性、重層的ツイスト、タブーを盛り込む勇気など観客への奉仕精神が圧倒的。地味で湿けた家族映画や恋愛映画ばかり企画する日本の製作者は本作を見て猛省しろ。

  • PMC ザ・バンカー

    映画評論家

    真魚八重子

    現実の北朝鮮、アメリカ、中国の関係性と密接にリンクし、国家間の緊張を題材にしながらも、たやすく軽めな架空の設定に突入していく配分に戸惑う。瞬く間に立場が移り変わって苦境に立たされる傭兵の攻防戦は、複雑に入り組むカメラ映像などによって緊迫感が続くとともに、演出的に過密すぎて若干混乱をきたしている。監督のキム・ビョンウは「テロ’ライブ」で崩壊と自滅の美学を描いたが、本作にもそのモチーフは活かされており、クライマックスの降下の悲壮な美しさは白眉。

  • レ・ミゼラブル(2019)

    映画評論家

    ヴィヴィアン佐藤

    単純な善悪は存在しない。人は歪な多面体で、集団や社会となるとさらに複雑で歪な多面体となる。劇中登場するスマホでの撮影やSNS投稿、そして要となるドローン。それらの出現により社会はさらに複雑化し、それによって社会が善い方向へ進むのか、悪い方向へ進むのか。どちらにせよ極端化するだろう。救済は決して訪れないし、奇蹟も起きない。ただ現実がそこにあるのみ。ユゴーの物語の根底には愛や改心があった。ロマンスや愛を見つけられないほど、この物語はリアルなのだ。

  • レ・ミゼラブル(2019)

    映画評論家

    藤木TDC

    とても面白い。多様な民族、宗教、ルーツの人々のコミュニティと化したパリ郊外の古びた団地を人種による分断の場と描くのではなく、折り合いながら共棲するアジール内の新たな対立に目を向けたのが画期的。肌色の違う彼らがフランスに同化済みなのは冒頭のシーンに明快で、私には理想の世界に見えたが、憎悪ではなく些細な人間的失敗から悲劇は生まれ衝撃的報復に至る。実話ベースなのに驚かされ、凱旋門に重ねたタイトル「レ・ミゼラブル」=“愚か者たち”に込めた思いが伝わる。

  • レ・ミゼラブル(2019)

    映画評論家

    真魚八重子

    スパイク・リーが絶賛というのがよくわかる傾向の作品だ。移民や貧困、宗教という問題を多角的に捉え得る中で、精神が摩耗する小競り合いや暴力のみを通して日常描写を行っていく。それぞれの立場に言い分があり平行線を辿るしかない多様さの軋轢を、どこに比重を置くでもなくありのまま活写する鋭利さ。クライマックスの、あるトリガーから自然に蠢き出す生き物のような暴動の派生は息が詰まる。社会に翻弄されながらも、そこには常に個人の判断があるというメッセージは重い。

  • 黒い司法 0%からの奇跡

    映画評論家

    畑中佳樹

    米南部である男を冤罪に陥れた捜査の杜撰さ、裁判の不正義、非道、度しがたい偏見、あまりの悪意に、身を震わせるような怒りが湧き起こり、その怒りがこれが映画であることを忘れさせる。我々を感動させたのは「映画」ではなく「実話」であると思ってしまう。だが、まさにその透明さが、これが比類のない映画であることを証明している。素直に泣き、怒り、喜んでいるうちに、こちらの顔まで凛々しくなっている。ラジオから聞こえるブルースやゴスペルが玄人好み。

  • 黒い司法 0%からの奇跡

    映画評論家

    石村加奈

    死刑囚監房内で、死ではなく、生きることを考えるのと同じく、司法制度に逆らって正義を貫くことは過酷である。しかし、M・B・ジョーダン扮する本作の主人公ブライアンはあかるい。彼の陽気さには、原作(ブライアン本人が綴った奮闘記)に因れば、母に連れられて通った教会音楽の力が大きかったのだろう。本作でも、聖歌隊の思い出や〈The Old Rugged Cross〉をはじめ、神々しい賛美歌が、ブライアンに希望を贈り、死刑囚ウォルター(J・フォックス!)を創造的に変えてゆく。

  • 黒い司法 0%からの奇跡

    映画評論家

    佐々木誠

    無実の罪で死刑宣告をされた平凡な黒人の男の実話。証拠が一切ない、明白な冤罪がなぜ立証されないのか、というもどかしさ。彼の弁護を黒人の若き弁護士が引き受ける。ほとんど勝ち目のない理不尽な戦い、その裁判のためのやり取りの中で、弁護する側される側を超えた関係が確立していく過程が熱い。最終判決のあっけなさのリアリティ、そしてこの事件が今も続く黒人死刑囚の冤罪のほんの一部の例、という事実。それらが法廷劇のカタルシスを超えた余韻を残す。

  • スケアリーストーリーズ 怖い本

    映画評論家

    畑中佳樹

    元気一杯、声が大きくて、しつこくて、見終わると暴れん坊の子供達をかかえた親のように疲れている。何を仕出かすかわからないので目を離せないが、結局大したことにはならずにホッとする。ん? これは褒めているのか、貶しているのか? まっすぐの道や通路の交点に自分がいて、遠くから何かが少しずつ近づいて大きくなってくる。という趣向もここまでやられて、そしてあんなものが出現すると色んな意味で腰を抜かす。いやずっこける。子供はこの映画大好きだと思う。

  • スケアリーストーリーズ 怖い本

    映画評論家

    石村加奈

    なるほど、子供の頃に読んでいたら、間違いなくトラウマになっていたであろう“怖い本”をG・d・トロ監督原案&プロデュースで完全映画化。特殊メイク業界最高のスタッフが集結し、再現されたモンスターの数々(いちばん怖かったのはルースのエピソード)、ベローズ家の荘厳な幽霊屋敷等、視覚的に“おどろおどろしい”世界を完成させた。実世界に居場所がなく、物語世界に迷い込んでゆく(しか術のない)少女ステラの切実さも、シックスティーズのなつかしい世界観に合っている。

  • スケアリーストーリーズ 怖い本

    映画評論家

    佐々木誠

    映画好きであれば誰でも子供の頃観てトラウマになっているホラー映画のシーンがあると思うが、私の場合は「ポルターガイスト」の顔を洗っていたら皮膚が剝がれていく場面がそれ。本作は、児童文学の映画化ということで、そういった子供心に忘れられない恐怖シーンがてんこ盛りだ。もういい大人なので、そこまで怖がることはなかったが、後半、プロデューサーのデルトロらしい恐怖と笑いが一体となった悪夢のようなシチュエーションがあり、それだけでも観る価値はある。

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