「生きているモレア」のストーリー

ニューヨークの出版業者アントニイ・モレアは涙と憐憫を軽蔑し、女性を翻弄することが人生の最も堅い生き方であると考え実行している男だった。女詩人コーラ・ムーアもその犠牲者の1人で飛行将校だった婚約者ポール・デッカーがあるがモレアの人を人とも思わぬ悪魔的な性格に不思議に心を引かれ、デッカーを捨ててモレアの許に走った。恋人を失ったデッカーはモレアを射殺しようとして失敗し、そのまま行方不明となった。やがてコーラが捨てられる時が来た。モレアは彼の魅力を感じないかの様に超然としている女流ピアニストのマチルドに興味を覚えて彼女を追い廻した。コーラは捨ててくれるなと涙を流して彼に懇願したがモレアは女の涙は大嫌いであった。そしてバーミュダへマチルドが行くというので荒天にもかかわらずモレアはバーミュダ行きの飛行機に乗った。ところが彼が乗った飛行機が墜落し、モレアの行方不明が伝えられた。しかし誰一人として彼の死を悼む者はなく、むしろ喜んだ。コーラも紙上でこの報を知って冷笑した。所がその翌日奇怪にもモレアの姿が彼の事務所で発見された。しかも彼が立ち去った後、机の上には海水のしたたる藻が一掴み残っていた。モレアは生きているのであろうか。その後モレアは友人たちを訪れてコーラの行方をたずねたが誰も知っている者はなかった。モレアはコーラを求めてニューヨークの町を当途もなく漂った。彼は自分の為に流してくれる涙と哀れみが欲しかったのだ。ついに彼は質屋のウインドにあるコーラの首飾りからかのじょの住居を見出した。薄暗い部屋でコーラは身も心も傷つき果てたデッカーの介抱に余念がなかった。彼を見たコーラは散々に罵った。デッカーは自分の幸福をめちゃめちゃにしたモレアをピストルで乱射し、己が胸を射て倒れた。しかしモレアは倒れなかった。彼は自分が侵した罪を神に詫びデッカーを救ってくれと祈るのだった。するとその誠実が通じてか、デッカーは蘇った。コーラは泣いてモレアに感謝した。それこそモレアが求めていた涙だった。彼の魂はこの涙によって、ようやく救われたのである。