「台風」のストーリー

英国貴族レクスフォード卿は紐育に遊んでその地の社交界で美貌の誉高いメリイに恋し、ついに結婚して本国へ伴い幸福な5年間の夫婦生活の中に可愛い女の子までもうけた。折しもレクスフォード卿は所要でアメリカへ渡らねばならぬ事になったが仕事の性質上妻のメリイを伴っていくことが出来ぬので結婚以来初めてしばしの別居生活に耐えねばならなかった。その間メリイは卿の伯母ヘティに連れられてリヴィエラヘ転地したが、そこで紐育時代からの知り合いで有名な遊蕩児のトミイに巡り合った。トミイはメリイを真面目に恋したが、立派な夫のあるメリイはもとより相手にしないので1夜やけ酒をあおり酔った紛れにメリイの室の露台から下に落ちて大怪我をした。新聞紙にこの事件をメリイとトミイとの間に何かの関係のあった結果であろうと邪推してかき立てたので、それが紐育にあるレクスフォード卿の耳にまで達した。彼が英国へ帰ってからの夫婦仲はどうも以前の様に円満ではなかった。メリイは神に誓って身の純潔を告白したが、夫の心には一抹の解けがたい疑念が残った。2人はまた2度目別居生活に入りレクスフォード卿はスイスのサンモリツへ行って孤独の生活を送る中、メリイはあくまで疑い深い夫の態度に飽き足らずヘティ伯母のもとにあって公然とトミイと交際を続けた。メリイを愛する情の深いレクスフォード卿にはどうしても彼女を離婚する勇気がなかった。その心持ちをくんだメリイの方でも初めて夫の真心に感じ、全てを打ち明けて夫の許しをこい、 に更めて水入らずの幸福な夫婦生活が始まった。