「美代子阿佐ヶ谷気分」のストーリー

70年代初頭。漫画家・安部愼一(水橋研二)は恋人の美代子(町田マリー)と東京・阿佐ヶ谷で同棲生活を送っていた。彼は美代子をモデルにして作品を雑誌「ガロ」に発表、中でも「美代子阿佐ヶ谷気分」は当時の若者たちの鬱屈した空気を軽やかに表現し、彼の代表作となった。自らの体験をもとに創作するという信念を持つ安部は、美代子との関係を確かめるように、美代子の友人・真知子(あんじ)と関係を持つ。同郷の徒である川本(本多章一)は、同じく阿佐ヶ谷で小説家を自称し、自堕落な生活を送っていたが、彼もまた美代子に想いを寄せていた。安部は自らの行為の意味を成立させるために、自分の目前で美代子を抱くよう川本に強要する。だが、それは安部が想像していたよりもはるかに重く罪の意識をもたらすことになった。答えのない疑念に引きずり込まれていく安部は、故郷である福岡・田川の炭鉱の記憶を辿り、自らの性を探りながら罪の意識に苛まれ、私生活と作品世界との境界線を次第に見失っていく。そんな中、創作に行き詰まるようになった安部は故郷に戻り美代子と結婚するが、やがて分裂症を発症、精神病院への入退院を繰り返し、魂の救済を新興宗教に求めていった。一方、「ガロ」編集部内では編集者の松田(佐野史郎)が行方知れずとなった安部を追っていた。類まれなる才能を持ちながら消えてしまった彼を諦めることができないでいたのだ。そんな松田に編集長(林静一)が差し出したのは、安部の現在の連絡先が記された名刺だった。松田が安部を訪ねると、静かな幸せが訪れているかのような安部がそこにいた。精神安定剤を常用し、副作用に悩まされながらも「僕は、一生描きますよ」と松田に告げた彼の目には創作への意欲が光っている。「美代子阿佐ヶ谷気分」を読み返しながら、松田は残酷で美しかった青春期に想いを馳せるのだった……。