「恋人たちの場所」のストーリー

ベネチア近郊の豪華な別荘に洗練された身なりの女性が到着した。彼女はジュリア(フェイ・ダナウェイ)といい、第一線のファッション・デザイナーだが、その若さに似ず憂いと疲労の色が漂っていた。そして、かつて一度だけ空港で会ったことのあるイタリアのエンジニア、バレリオ(マルチェロ・マストロヤンニ)のことを思い出した。その頃、彼女は近づいてきたバレリオに、結婚しているむねを話すと、彼は名刺を渡し去って行ったのだった。しかし、ジュリアは、今では夫と別れて自由の身。異国の心細さも手伝って、彼に電話をかけた。すぐやって来た彼はかつての空港での、とっぴな行動とは異なり保守的な育ちのよい男だった。2人は逢瀬を重ねた。ある時は彼の仕事場のオートレース場で、またある時はアルプスの山中の山荘で。2人の愛は深まったがある日のこと、ジュリアの仕事仲間のマギーが彼女を迎えにきた。というのは、実はジュリアは不治の病におかされ、余命いくばくもない身だった。今度の1人旅もこの世のなごりの意味も含んでいたのだ。そしてマギーは彼女を病院に入れるために迎えにきたのである。しかしジュリアは、バレリオとの幸福な時間を断念することはできなかった。短い生命なら、せめてこのまま……。そしてバレリオも事実を知った。だが2人は絶望的な恋の烈しさに身をまかせるより方法がなかった。スイスの山荘を引き揚げる時、ジュリアは断崖の道を恐ろしいスピードでとばしたが、それさえも、女の気持ちにまかせきった男の愛の現れであったろう。やがてバレリオは運転を変わった。ゆっくりと永遠の世界を行くかのように。恋人たちだけに開かれる、この世のすべてを抜け出た別の世界へ。