「おかえり」のストーリー

塾の講師をしている北沢孝は、ある晩、妻の百合子に早く帰ると約束をしておきながら、同僚の佐久間と飲んで遅く帰ってきた。孝は、断りの電話も入れたし、帰宅後に百合子が作ってくれた料理にも手をつけて義理を果たしたつもりだったが、百合子の方は、やすやすと約束を破る夫に対して普段から不満をつのらせており、その鬱憤が知らず知らずのうちに彼女の精神を蝕んでいたのだった。一方、孝は、百合子が「ちょっとそこまで」と言ってはちょくちょく表に出て行くようになっていたことを不思議に思い、こっそり後をつけてみることにした。すると百合子は、殺風景な丘の上に佇んでみたり、他人の家の前に何分も立っていたりと、奇妙な行動を取っている。何をしているのか問いつめてみても意味不明なことを言うばかりで、見回りと称した妻の奇行に、孝は唖然となる。そんなある日、ついに百合子が他人の車を盗んで乗り回し、警察に捕まってしまった。孝は警察の勧めで、彼女を病院へ連れて行くが、子供のように泣いて家に帰りたいと言う百合子をひとり残すことができず、結局、家に連れ帰るのだった。しかし、家に着いた途端、孝は心労から倒れてしまう。夫を看病する百合子の姿は、正気を取り戻したかのようだったが、彼が意識を回復した2日目の朝、ひと安心した彼女は見回りを再開する。妻の病気を徹底的に治すことを決意した孝は、引っ越しをして新たな土地で新しい生活を始めようとするのだった。