名優同士の激突は、観る者の胸を熱くする。後にマーティン・スコセッシ監督が「ディパーテッド」(06)として、ハリウッドでリメイクした香港映画「インファナル・アフェア」(02)は、警察とマフィア、それぞれの組織に潜入したアンディ・ラウとトニー・レオンの、数奇な運命を描いたハードボイルド。連絡係の上司以外、その正体を誰も知らない彼らは、常に身の危険を感じながら孤独に任務を遂行していく。マフィアの一員として犯罪に手を染めなくてはいけないことに悩む潜入警官のトニー・レオンと、マフィアだが徐々に警官として善人になろうとし始めるアンディ・ラウ。彼らが抱えるストレスと苦悩を名優二人が見事に表現して、単なる犯罪映画の枠を越えた見ごたえのある人間ドラマになっている。やがて組織の中で窮地に立っていく二人が、自らの生き方を選択する姿が切ない。今回は二人の若き日をエディソン・チャンとショーン・ユー主演で描いた第2部と、第1作のその後を描き、過去2作で提示された謎が回収されていく完結篇を含めて、3部作が一挙に放送される。

 

リドリー・スコット監督によるハリウッド映画「ブラック・レイン」(89)はニューヨークから大阪まで、犯罪者を護送してきたマイケル・ダグラス演じる刑事が主役だが、注目は大阪で逃亡する不敵な犯罪者に扮した松田優作と、マイケルに協力する日本の刑事を演じた高倉健の共演だろう。これが遺作となった優作の狂気をはらんだ快演、マイケルと友情で結ばれていく高倉健の抑えが利いた存在感。追う者と追われる者に扮した二人はこの映画で、世界レベルで通用する名演を見せた。その高倉健が亡くなって、早くも今年で10年。それにちなんで彼の主演作も続々と放送される。「幸福の黄色いハンカチ」(77)は、高倉健と山田洋次監督が初コンビを組んだ、北海道が舞台のロードムービー。旅の道連れとなる若いカップルとの触れ合いを軸に、別れた妻への想いを捨てきれない中年男を繊細に演じた高倉は、この作品でかつての任俠スターというイメージから、完全に脱却した。この作品以降、彼は山田監督と再び組んだ「遙かなる山の呼び声」(80)をはじめ、降旗康男監督とのコンビで「鉄道員(ぽっぽや)」(99)、「ホタル(01)など、哀感漂う男を演じて大ヒットを連発。14年に亡くなるまで日本映画史に残る名優として活躍していった。

 


19年に亡くなった萩原健一も、70年代を中心に時代をリードした名優の一人。その彼が主演した大作「226」(89)も放送される。これは1936年2月26日に、陸軍の青年将校たちが中心となって軍事クーデターを起こした『二・二六事件』を題材にした大作で、萩原は事件を先導する陸軍の歩兵大尉・野中役。彼と同じく歩兵大尉・安藤に扮した三浦友和を中心に、本木雅弘、竹中直人、八千草薫、丹波哲郎、仲代達矢ら、豪華俳優陣が顔を揃えて、事件の全貌を描いている。青年将校たちと家族とのドラマにもかなりのボリュームが割かれ、脚本の笠原和夫が骨太の人間ドラマに仕立て上げた。これもまた、男たちの熱いパッションのぶつかり合いが見逃せない、五社英雄監督による注目作だ。


文=金澤誠 制作=キネマ旬報社
(「キネマ旬報」2024年2月号より転載)



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2/14[水] 夜8時
「インファナル・アフェア」
監督:アンドリュー・ラウ、アラン・マック
出演:アンディ・ラウ、トニー・レオンほか
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2/23[金] 夜8時
「226」
監督:五社英雄
出演:萩原健一、三浦友和、竹中直人ほか
©1989 松竹株式会社

2/27[火] 夜8時
「ブラック・レイン」 
監督:リドリー・スコット
出演:マイケル・ダグラス、アンディ・ガルシア、高倉健
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