人気俳優の知られざる“オフの日の姿”を、気鋭の監督・脚本家たちが妄想を膨らませて描き、主演を務める俳優自ら本人役を演じる。そんなパラレルストーリーが展開される異色のオムニバスドラマ『撮休』シリーズの第4弾となる『杉咲花の撮休』のDVD-BOXが、2月2日に発売される。第1弾『有村架純の撮休』、第2弾『竹内涼真の撮休』、第3弾『神木隆之介の撮休』に続きフィーチャーされたのは、「湯を沸かすほどの愛」(2016)で第40回日本アカデミー賞最優秀助演女優賞、新人俳優賞を同時受賞。2020年にはNHK朝ドラ『おちょやん』でヒロインを務めたほか、現在公開中の主演映画「市子」(2023)における、文字通り“全身全霊”をかけた芝居でも2023年度の賞レースを賑わせるであろう、杉咲花だ。

今泉力哉、松居大悟、三宅唱が「およそ22分で杉咲花のオフの一日の出来事を描く」

ドラマや映画の撮影期間中に様々な事情から突然訪れる休日、通称“撮休”を、多忙な日々を送る俳優は、誰とどう過ごすのか―。エンドロール後に「このドラマはフィクションです。杉咲さんの実際の撮休とは、一切関係ありません」と断りが出ることからもわかるように、虚構の物語であることは理解しながらも、“推し”のプライベートを覗き見しているかのような背徳感さえ抱いてしまう。「およそ22分で杉咲花のオフの一日の出来事を描く」というお題を与えられた監督たちが、知恵を絞って大喜利を楽しんでいるとも言える作品なのだ。

全6話で構成される本作は、「アイスと雨音」(2018)や「ちょっと思い出しただけ」(2022)などをはじめ、ドラマや演劇も多数手がける松居大悟。「愛がなんだ」(2019)や「街の上で」(2022)など、等身大の恋愛模様を巧みな会話で恋愛群像劇へと昇華してきた今泉力哉。「きみの鳥はうたえる」(2017)や「ケイコ目を澄まして」(2022)などで注目を集める三宅唱。と、比較的年齢が近い3人が監督を担当。脚本には、3人の兼務に加えて、小説「ボクたちはみんな大人になれなかった」などで知られる燃え殻、「ある男」(2022)などの向井康介、アニメの脚本やドキュメンタリー映画の構成も務める和田清人と、豪華な面々が集結した。

 

見どころは、上白石萌歌の弾き語りや俳優同士の恋愛事情、杉咲花と“杉咲雪”の競演!?

今泉と三宅は過去にも同シリーズに参加しているが、松居は今回が初。特典映像として収録された杉咲と3監督による座談会によれば、監督同士の交流は以前からあったものの、いずれも杉咲とは初タッグとなる。監督陣は互いの企画を事前にすり合わせることなく、それぞれが思い描く“杉咲花”のパブリックなイメージを基に、これまでのシリーズでまだ誰も試していない切り口を探りながら、オリジナリティ溢れる6つのストーリーを生み出した。

例えば、松居大悟が監督・脚本を務めた第1話「丸いもの」では、自宅の洗濯機が故障していることに気付いた杉咲が、仕方なくコインランドリーに出向くも千円札しか手元になく、両替をしようと店の外に出たところ、弾き語りをする路上ミュージシャン(上白石萌歌)に出くわし、ついその千円でCDを買ってしまう。杉咲は、コインランドリーに居合わせた客(松浦祐也)に小銭を借りようと試みるが、手順を誤り、思いもよらない展開が待ち受ける。

今泉力哉が監督・脚本を手掛けた第3話「両想いはどうでも」では、杉咲が以前から好意を寄せている相手(泉澤祐希)の家に行き、正式に交際を始めるかどうかを話し合う。だが、「このタイミングでの交際は控えた方がいいのでは?」と気遣い、煮え切らない態度を取る相手にしびれを切らした杉咲は、二人でマネージャーのもとへと交際許可をもらいに行く。ところが、マネージャーから思わぬ打ち明け話を聞き、それどころではなくなってしまう。

和田清人と三宅唱が二人で脚本を書き、三宅が監督した第5話「従姉妹」と最終話「五年前の話」は、他の話とは構成が大きく異なり、2つの物語が地続きとなっている。杉咲と同棲している恋人(坂東龍汰)と、俳優仲間の河野緑(橋本愛)がいずれの話にも登場するが、「従姉妹」では杉咲が一人二役で従姉妹役も演じ、対話シーンの映像トリックも存分に楽しめる。最終話で回想シーンがモノクロで表現されるのも、過去シリーズにはないアイデアだ。

「明日、撮休になりました」と、局プロデューサー役の松尾諭が、杉咲とマネージャー役の菊池亜希子のもとへ告げに来る場面が全話の冒頭に挿し込まれるのも、同シリーズならではの特徴だ。監督・今泉力哉×脚本・山名宏和によるユーモラスな寸劇や、杉咲が覗いたカレイドスコープの中に、さまざまな表情の杉咲花が無数に映し出されるオープニング映像。そして、まるで使い捨てカメラで撮ったかのような質感の、“エモい”メイキング写真が次から次へと流れてくる各話のエンディング映像と共に、本作の見どころの一つとなっている。

 

特典映像には、杉咲花を囲んで3監督が赤裸々に語り合う特別座談会<完全版>も収録!

才能豊かな監督同士の作品が一度に楽しめるオムニバス企画は、観る側にとっては“お得で贅沢”でしかないが、撮る側、自分自身役を演じる側にとっては果たしてどうなのだろうか。答えが知りたい人は、特典映像に収録されている杉咲と3監督との特別座談会<完全版>や、完成披露試写会での4人の舞台挨拶の模様を、是非ともまずはまっさらな状態で本編を鑑賞してから、答え合わせをするようにじっくりとチェックして観て欲しい。杉咲と監督が明かす各話のとっておきの撮影裏話と共に、互いの作品へのリスペクトに嫉妬を滲ませた、クリエイターの本音にも触れられるからだ。

たとえば、「Q.やられた~!と思ったお芝居はある?」という質問に、「第4話『リリー』での杉咲さんと光石研さんとのやりとり(三宅)」「最終話『五年前の話』の劇中でインタビューを受けているシーン。この企画で白黒やる?(今泉)」「第3話『両想いはどうでも』で本人役なのにああいうテーマ(恋愛)をやっている危うさにゾワッとした。作品の枠のなかで、よくこういうのをやるなぁと(松居)」とそれぞれの監督が答えたり、杉咲が「各話ごとに、それぞれの組のおなじみの俳優が出演していて、監督との信頼関係がうらやましかった」と吐露していたり。さらに、「脚本とは、監督から俳優へのお手紙的な存在(今泉)」でもあり、「ト書きの書き方に、それぞれの監督の個性が如実に現れる(杉咲)」との切り口で展開される、今の日本映画界をけん引する俳優と監督たちによる「監督論」には、瞠目させられた。映像業界を志す俳優やクリエイターにとっても、必携のDVDであるといえるだろう。



文=渡邊玲子 制作=キネマ旬報社

「WOWOW 連続ドラマW-30 杉咲花の撮休」

●2月2日(金)DVDリリース(レンタル同時)
DVDの詳細情報こちら

●DVD 価格:8,580円(税込)
【ディスク】<2枚>
★映像特典★
・完成披露試写会舞台挨拶、主演&監督 特別座談会<完全版>、スポット映像集

●2023年/日本/本編約147

第1話「丸いもの」
監督・脚本:松居大悟
出演:杉咲花、松尾諭、上白石萌歌、松浦祐也

第2話「ちいさな午後」
監督:今泉力哉 脚本:燃え殻
出演:杉咲花、松尾諭、若葉竜也、芹澤興人、中田青渚、岡部たかし、塚本晋也ほか

第3話「両想いはどうでも」
監督・脚本:今泉力哉
出演:杉咲花、松尾諭、泉澤祐希、菊池亜希子

第4話「リリー」
監督:松居大悟 脚本:向井康介
出演:杉咲花、松尾諭、ロン・モンロウ、光石研ほか

第5話「従姉妹」
監督:三宅唱 脚本:和田清人、三宅唱
出演:杉咲花、松尾諭、坂東龍汰、橋本愛ほか

最終話「五年前の話」
監督:三宅唱 脚本:和田清人、三宅唱
出演:杉咲花、松尾諭、坂東龍汰、芋生悠、足立智充、橋本愛ほか


●発売・販売元:ハピネット・メディアマーケティング
©WOWOW「杉咲花の撮休」

最新映画カテゴリの最新記事