第79回ヴェネチア国際映画祭のコンペティション部門にも出品された深田晃司監督の話題作「LOVE LIFE」のDVDが、11月8日に発売される(レンタル同時リリース)。

この映画は矢野顕子の同名曲にインスパイアされた深田監督が、『愛』と『人生』を真正面からとらえたオリジナルストーリー。ある集合住宅に住む妙子(木村文乃)は、前夫との間にできた息子の敬太と再婚した二郎(永山絢斗)との3人暮らし。敬太がオセロ大会で優勝したことを祝うパーティーの日、敬太は水を張った自宅の風呂場に落ちて溺死してしまう。悲しみに暮れる妙子の前に、前夫のパク(砂田アトム)が現れる。最初は自分と息子を置き去りにして4年前に姿を消したパクを許せない妙子だったが、“聾者”であるパクの世話をするうちに、彼と過ごすのが日常になっていく。一方、二郎は妙子の前につきあっていた山崎(山崎紘菜)と再び会っていた。

子どもの死が、夫婦の『愛』と『人生』を変える

登場する人物たちは、誰もが表面とは違う顔を持っている。妙子は最初、二郎や敬太と一見幸せな生活を送っているように見えるが、二郎の両親は子持ちの彼女を息子の嫁と認めることに躊躇があって、妙子は家族が一つになれないことに寂しさと憤りを覚えている。二郎は恋人の山崎を捨ててまで妙子と一緒になったが、いまだに彼女の目を見て話せない心に被膜を持つ男性だ。二郎の母親は二人の結婚に理解を見せているが、敬太が亡くなると、彼の遺体が今は二郎夫婦が住んでいる、かつての自分たちが暮らした住宅に返されることを、激しく嫌う。夫婦や親子、形だけはその関係を取り繕っているが、実は本音を隠して過ごしている彼らの心が、敬太の死によってざわつきはじめる。

本音で生きる男、パクの存在が状況を動かす

そこで登場するのが妙子の前夫パクで、敬太の葬式にいきなり現れた彼は、激情にまかせて妙子を張り倒す。その後、妙子が「なぜ自分や敬太を置いて家を出たのか」と問い詰めると、「うまく伝えられない」というパク。さらに後半、自分の父親が韓国の病院で危篤だから金を貸してくれと妙子に頼むが、これは嘘で、実は妙子の前に結婚してた韓国女性との間にできた息子の結婚式に出席したいがために、金を無心したのだ。言い訳はしないが、筋の通った説明もしない。その場の本音だけで行動するパクは、人間関係の形を整えることで平穏な生活を手にしようとする妙子や二郎とは、対極にある人間である。

深田監督は第69回カンヌ国際映画祭『ある視点』部門で審査員賞を受賞した「淵に立つ」(2016)で、下町で小さな工場を営む夫婦のところに夫の古い知人・八坂がやってきて、彼の存在によって家族の生活に波風が立つさまを描いた。家族はそれまで平凡だが穏やかな日々を送っていたはずだったが、八坂が来たことで妻は彼にときめきを覚え、一家の娘は彼に心を開いていく。ここでは最初にあった家族はどこか形だけの存在で、八坂が入り込んで生まれた新たな家族にこそ、心の通い合いがあることが示されていた。今回はパクが妙子と二郎の関係に入り込んできた、八坂のような異分子になっている。

見逃せない、俳優たちの好演!

妙子はホームレスだったパクを社会的に更生させるために何かと世話を焼き、やがて“聾者”で弱い立場にあるパクにとって、自分はなくてはならない存在だと思い込む。だがそれは気持ちのすり替えにすぎなくて、敬太が風呂場で死んでから、自宅の風呂に入れなくなった彼女が、再び湯船に浸かれるように傍で寄り添ってくれたのがパクだったし、実は彼女の方が心の傷をいやすためパクに依存しているのだ。妙子がパクの嘘を信じて、韓国まで付き添っていこうとする行為も、自分は彼に必要な存在という思い込みに他ならず、やはり本音ではなく関係性を主導に考えて、彼女は人と人を捉えている。深田監督はそんな外面の関係性を剥ぎ取って本当の自分に戻ったとき、妙子や二郎にどんな『愛』と『人生』が残るかを描いている。

いびつな人間性をはらんだヒロインの妙子を、木村文乃が手話も交えて味わい深く表現。常に心が宙に浮いているようで、感情のありかが見えない二郎を演じた永山絢斗、妙子に対する嫉妬心と恋を失った淋しさの塊のような山崎を演じた山崎紘菜と、キャスティングが見事にはまっている。中でも注目されるのが、パクに扮した“聾者”俳優の砂田アトム。ともすれば無責任に生きている、受け付け難いキャラクターになりそうなパクを、芯の部分に純な人柄をにじませて愛すべき役にした。エンディングにかかる矢野顕子の『LOVE LIFE』の歌詞に人物たちの思いが透けて見える、奥行きのある人間ドラマになっている。

DVDには30秒、60秒、海外版の予告編をはじめ、深田監督と木村文乃、砂田アトムが参加したヴェネチア国際映画祭での公式上映前後の模様を収録。そこには出席した3人に加えて、このときヴェネチアに来ていた石川慶、是枝裕和監督のコメントも入っている。また公式上映翌日に日本へとんぼ返りした木村と砂田を交えた、公開初日舞台挨拶の模様も収録。ここでは二人の他に永山絢斗、山崎紘菜も参加し、映画の魅力を語っている。

 

文=金澤誠 制作=キネマ旬報社

 

 

 
「LOVE LIFE」

●11月8日(水)DVDリリース(レンタル同時)
▶DVDの詳細情報こちら

●DVD 価格:4,620円(税込)
【ディスク】<1枚>(DVD

★映像特典★
・イベント映像集(ヴェネチア国際映画祭、初日舞台挨拶)
・予告集


●2022
年/日本/本編123
●監督・脚本・編集:深田晃司
●主題歌:矢野顕子「LOVE LIFE」(ソニー・ミュージックレーベルズ)
●音楽:オリビエ・グワナー

●出演:木村文乃、永山絢斗、砂田アトム、山崎紘菜、嶋田鉄太、三戸なつめ、神野三鈴、田口トモロヲほか

●発売・販売元:ハピネット・メディアマーケティング
©2022 映画「LOVE LIFE」製作委員会 & COMME DES CINEMAS 

最新映画カテゴリの最新記事

今日は映画何の日?

注目記事