初共演の役所広司&菅田将暉の実在感がほとばしる「銀河鉄道の父」が描く家族愛

門井慶喜の第158回直木賞受賞作を、成島出監督が役所広司主演、菅田将暉共演で映画化した「銀河鉄道の父」のBlu-ray&DVDが、11月8日に発売される。家族愛に溢れた本作の魅力を紐解いていこう。


子煩悩だった父・政次郎を通して描かれる“作家”だけではない宮沢賢治の魅力


この作品は宮沢賢治(1896~1933)の父・政次郎にスポットを当て、彼を中心に家族の目から賢治の生涯を捉えたもの。宮沢賢治と言えば『銀河鉄道の夜』を代表作とする童話作家のイメージが強いが、人造宝石の製造・販売を思いついたり、農学校で教師をしたり、芸術と農作業を両立させたユートピアを作ろうと『羅須地人協会』を設立したりと好奇心旺盛で、作家という枠だけではくくれないマルチな才能の持ち主だった。その彼を支えたのが父親の政次郎。賢治の家は祖父の代から質・古着商を営んでいて、地元の岩手県花巻市では知られた裕福な家だった。ただ賢治は貧しいものから安い金で持ち物を預かる質屋という家業が嫌いで、やがて父親に反発。また政次郎は熱心な浄土真宗の信者だったが、賢治は法華経に傾倒し、宗教的にも父と対立して、一時家を出ている。

 

映画では役所広司演じる政次郎と菅田将暉扮する賢治との、家業や宗教に関する対立も織り込みながら、最後まで途切れることのなかった家族愛を映し出している。さらに、この作品が異色なのは、これまで賢治を描いた映画「宮沢賢治─その愛─」(1996)や「わが心の銀河鉄道 宮沢賢治物語」(1996)で仲代達矢や渡哲也が演じた厳格な賢治の父とは違って、役所広司の政次郎が息子に無償の愛を捧げる、イクメンの元祖のような父親として描かれていること。映画の前半で赤痢に罹った6歳の賢治の看病を政次郎が買って出る場面があるが、これは事実で、彼は賢治の看護を続ける中で自分も感染してしまったという、子ども想いの優しい男であった。公開時、役所広司に話を聞いたが、彼は政次郎を一見厳格そうに見えながら、どこか隙のある人物と捉えたそうだ。家族を思う熱い心情で突っ走ってしまうことから生まれる、政次郎の隙。そこに役所は、人間らしい温かさを見出したのだ。


役所、菅田入魂の演技、絶妙なバランスのキャスティング

映画の最大の見どころは、これが初共演の役所と菅田将暉の芝居である。『家業を継げ』という政次郎に賢治が『嫌だ』と断る場面や、賢治の文学的な才能を信じて、彼に作品を書かせる原動力となった妹のトシが亡くなって、『もう自分には、物語が書けない』と泣きじゃくる賢治に、『だったら俺が宮沢賢治の一番の読者になる』と政次郎が言って励ます場面など、親子が花巻の実家で話し合う場面は、たとえそれが反発し合うところでも、二人の名優が発するセリフの裏に父子の絆を感じさせて、どれも見ごたえのあるものになっている。特に賢治の臨終シーンは、家族みんなが揃っていることこそ史実と違う映画独自の解釈だが、賢治が手帳に書き記した『雨ニモマケズ』の詩を、政次郎が暗唱するくだりが秀逸。詩の全文を、意識がもうろうとした賢治に言い聞かせる役所の演技に、賢治に注がれる政次郎の愛が凝縮されているように感じた。

賢治を演じた菅田将暉も、あらゆることに全身全霊で情熱を傾ける宮沢賢治になりきっていて、『羅須地人協会』で集まったみんなに自分が作詞・作曲した〈星めぐりの歌〉をチェロで弾き語りする場面は勿論、病気になったトシに自分が書いた物語を読み聞かせるため、必死で原稿用紙に向かって文字を書き連ねる場面など、“賢治とはこういう人だったに違いない”と思わせる実在感がある。特典映像の舞台挨拶での発言を見ると、後半で病に侵されて弱っていく場面では、ほとんど食事をとらずに実際に痩せていったことが明かされ、まさに入魂の演技を披露している。

他にも文学者としての賢治を精神的に支え続け、やがて不治の病に倒れる妹トシを演じた森七菜、夫を立てて常に一歩引いたところにいながら、家族への深い愛情をにじませる母親役の坂井真紀、政次郎とは対照的に厳格な祖父を演じた田中泯、家業を継がない兄に代わって家を守っていく弟・清六役の豊田裕大と、宮沢家の人々を演じた俳優たちが全員はまり役。政次郎をメインとしたこのホームドラマは、絶妙なバランスが取れた家族のキャスティングによって成り立っているのだ。

特典映像にはテレビ放送された特別番組も収録

また今回のBlu-rayには、多彩な特典映像が収録されている。いきものがかりの主題歌が入った特報など8種類の予告編集を始め、完成披露試写会や賢治の地元・花巻市での特別試写会、初日舞台挨拶、公開から1週間後の公開記念御礼舞台挨拶といった舞台挨拶集、岐阜県恵那市を花巻に見立てて行われた撮影風景や、花巻弁で話す台詞の難しさに苦戦する俳優たちのコメントも入ったメイキング、そして賢治の生涯や、撮影風景、出演者のコメント、宮沢清六の孫に役所広司と森七菜、成島監督が会いに行って、『雨ニモマケズ』が書かれた賢治の手帳の現物を見る場面も登場する、『特番~日本中に届けたい感動の物語』というテレビの特別番組まで、内容は盛りだくさん。中でも主要キャストが揃った舞台挨拶集には、ここでしか聞けない撮影時のエピソードも多く収録されていて興味深い。映画本編の裏側をより深く知ることができる中身の濃い特典映像になっているので、ぜひ本編と合わせて楽しんでいただきたい。

文=金澤誠 制作=キネマ旬報社

 


「銀河鉄道の父」
●11月8日(水)Blu-ray&DVD発売(レンタルDVD同時リリース)

●Blu-ray:5,280円(税込)
【特典映像】
・予告編・SPOT集、特報(30秒)/主題歌入り特報(65秒)/予告編(30秒・60秒・120秒)、WEB SPOT(15秒)/TV SPOT(感動編15秒/コメント編15秒)
・メイキング
・舞台挨拶集(完成披露試写会、花巻特別試写会、初日、公開記念)
・映画「銀河鉄道の父」特番~日本中に届けたい感動の物語~(23分)

●DVD:4,290円(税込)
【特典映像】
・特報(30秒)/予告編(60秒)

●2023年/日本/本編128分
●監督:成島出 
●脚本:坂口理子
●出演:役所広司、菅田将暉、森七菜、豊田裕大、坂井真紀、田中泯

●発売元:キノフィルムズ/木下グループ 販売元:ハピネット・メディアマーケティング
©2022映画「銀河鉄道の父」製作委員会

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