いまこそこんな医師が居て欲しい──16年ぶりに製作された映画『Dr.コトー診療所』に込められた願い

医療ヒューマンドラマとしても、離島ドラマとしても、日本のテレビドラマ史に大きな足跡を刻んだ吉岡秀隆主演の名作ドラマ「Dr.コトー診療所」シリーズ。同ドラマの第2シリーズ放送から16年を経て、待望の続編が新作映画として昨年公開され、大ヒットした。その「映画『Dr.コトー診療所』」のBlu-ray&DVDが、7月21日にリリースされた。ファンの方には言わずもがな、本作含めシリーズ未見の方にも、1本の良質な日本映画としてお薦めしたい作品だ。

続編が望まれ続けた伝説的な名作ドラマ

ドラマ「Dr.コトー診療所」シリーズは、山田貴敏による同名漫画を原作に、2003年にフジテレビ系の連続ドラマとして第1シリーズを放送。2004年に特別編とドラマスペシャルを放送し、2006年に連続ドラマ第2シリーズを放送。いずれも高視聴率を獲得した。

舞台となるのは、本土からフェリーで6時間以上かかる、日本最西端の自然が美しい“志木那島”。テレビシリーズでは、東京から島の診療所に赴任してきた名医の五島健助が、それまでまともな医師が来たことがなかったため、最初は島民たちに不信感をもたれてしまう。しかし、次第にその人柄や腕の良さが認められ、コトー先生の愛称で親しまれるようになり、島にとってかけがえのない家族となっていく姿が、島民とのふれあいやリアルな医療描写を交えて、美しい自然の中で描かれた。

名実共に高い評価を受け、後の医療ドラマにも大きな影響を与えた本作以降、離島を舞台にしたドラマはいくつか製作されたが、本作以上に成功した作品はないだろう。主人公のコトー先生役を演じた吉岡秀隆にとっても、「北の国から」シリーズで演じた黒板純、映画「男はつらいよ」シリーズで演じた役に続く当たり役となった。2006年の連ドラ終了後、続編を望むファンの声は多く、中江功監督も続編への意欲は大いにあったようだが、2003~2006年のテレビシリーズで描くべきテーマを描き尽くしてしまったことから、新たなテーマを見つけるまでに、長い年月を経ることになった。

16年ぶりの新作を映画化した理由

配信、再放送、Blu-ray&DVDなどにより、根強いファンのみならず新たなファンも生まれているという「Dr.コトー診療所」シリーズ。そのドラマ人気に乗っかっただけの映画化企画であれば、16年も空けずにもっと早く作っただろうし、映画と連動したテレビスペシャル版なども同時製作したかもしれない。今回の続編は、いま映画として描くべき理由やテーマが見つかったからこそ実現したものであり、中江功監督は公式HPのコメントなどで、コロナ禍で会えなくなった人がいたり、人の生死について考える時間も増えたことから、「やりたいことはやれるうちにやろう」「同じメンバーで『Dr.コトー診療所』をもう一度やりたい」と思ったことを明かしている。

さらに中江監督は、空白の16年の間も島民たちが変わらず島で生きていて、これからも生き続けることや、島の現在の美しい姿をスクリーンに映し出すことをテーマにしたという。その思いは皆に伝わり、以前は続編に消極的だった吉岡も覚悟を決め、柴咲コウ、時任三郎、大塚寧々、蒼井優、大森南朋、朝加真由美、泉谷しげる、筧利夫、小林薫ら、スケジュールを合わせるのさえ困難な豪華共演陣もみな出演依頼を快諾。コトー先生に憧れて医者を目指した原剛洋役の富岡涼も俳優業を引退していたにもかかわらず再演を決め、ゲスト的な出演だった堺雅人、伊藤歩、神木隆之介らまでも、ドラマ版と同役で出演している。主要スタッフの多くも以前と同じメンバーを揃えることができたそうで、皆がいかにこの作品を愛し続けていたのかがよく分かる。

様々な見方ができ、深い余韻が残る力強い感動作

髙橋海人、生田絵梨花らのフレッシュな新キャストも加え、現実と同じく前作から16年の時を経た現在の志木那島を舞台にした本作。コトー先生は、柴咲演じる看護師の彩佳と結婚し、ふたりの間には間もなく子供が生まれる。幸せそうな日々に思われた中、様々な困難が重なり、改めて命の尊さに向き合わざるを得なくなったコトーは、深く葛藤することになる。

過疎高齢化が進み、島は財政難にあえいでいるし、自然の猛威にも振り回される。クライマックスでは命の選択を迫られるような過酷な事態も描かれるが、すべての命を諦めないというコトーの信念と、髙橋演じる若手医師の語る厳しい現実をどう見るかは、観客それぞれ違うだろう。若手医師の問題定義はリアルだし、共感する人も多いはず。一方、コトーの姿勢や判断も、島に来てから約19年、島民すべての命をたった独りで背負い続けてきたからこそできるものだといえる。いずれにしても、本作をどう見るかは観客に委ねられているし、すべての医師従事者たちへエールを贈り、いまこそこんな医師が居て欲しいという願いが込められた、深い余韻が残る力強い感動作となっている。また、単体の映画として勝負できる自信があるからこそ、ドラマ版の回想シーンなどを一切入れていないのも潔い。

コトー先生が颯爽と自転車で走る名シーンの過酷な裏側もわかる貴重な特典映像

7月21日にリリースされたBlu-rayとDVDの各豪華版には、映像特典ディスクと44頁のスペシャル・フォトブックも付属。映像特典は、約80分もの撮影現場の様子や現場コメントを収めた『スペシャル・メイキング「16年の月日とそれぞれの絆」』、10人のキャストが今回の撮影を振り返る『キャスト インタビュー集』、吉岡らキャスト5人と監督が一堂に会して貴重なシリーズ秘話を語り合った『公開記念特番「Dr.コトー診療所 16年ぶりの同窓会」』などの他、イベント映像集、予告編集、TVCM集など盛りだくさん。

『Dr.コトー診療所』の現場は過酷だと言われるが、メイキングではその一端が垣間見られる。コトー先生が島の美しい風景の中を颯爽と自転車で走るシーンは、このシリーズを象徴する名シーンだが、その撮影は実は大変。湿度の高い島で、灼熱の太陽を間近に感じる路面の上は、ハンドルの持ち手も溶けるほど暑いそう。監督が思い描く空になるまでひたすら天気待ちがあり、走るコトーの白衣のひらめき方にもこだわる。そうして何度も自転車を漕いでいくのは、電動アシスト付の自転車になっても体力を消耗するそうで、爽快に見えるシーンの裏側は苦労がいっぱいのようだ。『キャスト インタビュー集』でも、キャストの発言に対応したメイキング映像を見ることができ、シリーズの集大成にして完結編にふさわしい映画ならではの豪華特典が収められている。シリーズの最後を飾るという意味でも、1本の日本映画としても、見応え充分な本作のBlu-ray&DVDは手元に置きたい必携のアイテムとして、ファンならずともお薦めしたいところだ。

文=天本伸一郎 制作=キネマ旬報社

 

 

映画『Dr.コトー診療所』

●7月21日(金)Blu-ray&DVD発売
▶Blu-ray&DVDの詳細情報はこちら

●Blu-ray豪華版:7,920円(税込) DVD豪華版:6,930円(税込)
【封入特典】
スペシャル・フォトブック(44P)
【映像特典】
予告編集/TVCM集/イベント映像集/公開記念特番「Dr.コトー診療所 16年ぶりの同窓会」/スペシャル・メイキング「16年の月日とそれぞれの絆」/キャスト インタビュー集


●Blu-ray通常版:5,170円(税込) DVD通常版:4,180円(税込)
【映像特典】
予告編集/TVCM集


●出演:吉岡秀隆、柴咲コウ、時任三郎、大塚寧々、髙橋海人(King & Prince)、生田絵梨花、大森南朋、泉谷しげる、筧利夫、小林薫 
●監督:中江功
●脚本:吉田紀子
●原作:山田貴敏「Dr.コトー診療所」 
●音楽:吉俣良
●主題歌:中島みゆき「銀の龍の背に乗って」(ヤマハミュージックコミュニケーションズ)

●発売元:フジテレビジョン 販売元:ポニーキャニオン
©山田貴敏 ©2022 映画「Dr.コトー診療所」製作委員会